冗談不覚
店員の、掛け合い
秋彦は店長代理の水島から、この日三度目になる説教をされていた。
「たーぐーちー! あんた一体どういうつもりなの? いくら店長がいないからってボケるのにも程がある! それは開けずに返品するってついさっき言ったばっかでしょ!」
秋彦は届けられた段ボールを全部開けスナック菓子をあるだけ出していた。そもそもコンビニは陳列スペースが限られているというのに、発注の際に桁を間違えこんなに届いてしまったのも秋彦の仕業であった。
「はーん? さてはクビになりたいんだね?」
「イイエ、メッソウモゴザイマセンデス」
片言で答え、またも水島を怒らせる。
「! この、またふざけて!」
てへっと笑って秋彦はレジに逃げ込んだ。客はいない。売り場からレジに移動した所で説教場所が移動するだけとも思えるが秋彦はちゃんと知っていた。水島が、レジに立っている加藤にベタ惚れだということを。
秋彦の読み通り水島は憎らしさに顔を歪めながらも何とか頬笑もうと努力している。だが、結果、ただの苦笑いになってしまった。
「と、とにかく、あれをなんとかしておくように!」
秋彦はわざわざ加藤の横に立ってからニヤリと笑って返事をした。
「はーーい。もちろんですよ! 店・長・代・理ー」
思いっきりふざけているが、これでも一応反省はしているのだ。怒りと恥ずかしさに顔を赤くした水島が裏に消えたのを見届けるなり深いため息をつく。
「あーあ、またやっちゃいましたよ。しっかりしなきゃって思っては、いるんですけどね」
「たぐっちゃんさー何かあった? 最近明らかに今までと違う意味で変だもん。少し前は、やたら明るいっていうか、いつも以上にはしゃいでる感あったけど、ここ最近はボーッとしてるっての? 心ここにあらずって感じ」
“いい男の顔でオーディションに応募して合格通知を待ってるんです”などと言えるわけはなく秋彦なりに考えた結果はこれだった。
「簡単に言うと、見た目がすごくておもしろいのに出会って、こんなに待ってるのに遅いから、ってとこですかね」
「おいっ、簡潔すぎだろ! っていうか意味不明だ!」
突然、加藤がハッとした顔で秋彦を見つめた。
「まさか、ミュージシャンがよくやるというアレか? ……クスリ?」
「そんなっ、違いますよ! してません、してません! でも加藤さん俺のことミュージシャンって認めてくれるんですね! うれしいっす!」
「そりゃー毎回バイト先にでっかいギター持ってきてるし、アーケードで歌ってるって噂も聞いたことあるし」
まだ“ミュージシャン”の余韻にひたっている秋彦は遠くを見ながらニヤケ顔になっていた。そのあやしい顔を見て加藤の顔は引きつっている。
「……」
見つめられていることに気付き秋彦はあわてて答えた。
「え? あ、そうですね。アーケードは毎日行ってますよ。曲も続々と増えてますし」
「へぇ、やっぱ自分で作ってんだ。曲ってどのくらいあんの?」
「数えたことないけど軽く五、六百はあると思いますよ」
「六ぴゃ……」
加藤が驚きの声をあげようとした瞬間に自動ドアが開き一時間ぶりに客がやってきた。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ、こんにちはー」
客はオレンジジュースとパインアイスをさっと取り一分もたたないうちにレジにやってきた。
それから切れ間なくぽつぽつと客が訪れたおかげで秋彦は考え事をする暇がなく、その後は水島の怒りを買わずに済んだ。