若者時差
新鮮な、個人情報
「あ、そうだ。応募するのに必要だからプロフィールここに書いといて。俺の名前だと前応募したとこにバレちゃうからねー」
秋彦が一枚の紙を差し出した。
「あ、裏だよ、う、ら」
字が書いてある表の面を見つめていた誠にすかさず声がかかる。渡されたのははバツ紙だ。
誠は、その紙を使うのは縁起が悪いのではないかと気になったが、渡したのは秋彦なので自分も気にしないようにした。
物置となっているコタツの一画が机代わりだ。書く前にきちんと正座をして手本のような姿勢になったことから想像できる通り、きれいに整った読みやすい字を書いている。いつもノートに書き込みをしているから字は書き慣れているが、やっぱりかしこまって書く字は一味違うということなのだろう。
誠は黙々とペンを走らせていたがしばらくすると、ふと手を止めて秋彦の顔を見上げた。
「ん? あぁこんだけ書いてあれば十分十分。住所とか連絡先は俺の書くし。でも俺からの連絡用に携番だけ追加で書いといて。結果知らせなきゃだし。んっふっふ」
誠が固まった。(ケイバン? K盤? レコードの種類かな? いやいや。警晩? 刑版? 競馬ん? いやまさか。けいけいけいばん…………あ! 携、番!)
長く同じ年頃と接することがなかった誠はその単語を理解するまでに流行言葉に疎い年配者並みの時間を要した。
(番号……か)少し迷ってから誠は携帯のメールアドレスを書き始めた。
秋彦はそれをじっと見つめていたが書き終わらないうちに、さりげなくつぶやいた。
「ちゃんと番号も書いといてくれよ、電話なら俺の声を聞くことができるだろ? 電話の向こうで誠が縦にでも横にでも首振っててくれればわかるし」
そう言われて一瞬驚いたが、ふっ、と笑ってメールアドレスの下に携帯の番号を書き足した。最後にもう一度内容を確認してからパソコンの前にいる秋彦に手渡す。そして誠はしばらくぶりに立ち上がった体から朝食を要求されていることに気付いた。
「おー、貴重な個人情報をさんきゅー」
受け取った紙に目を通していた秋彦は、ある一点で動きを止めその視線を誠に向けた。
誠はそのまま大きく伸びをして体をバキボキいわせている。それから不思議そうな顔をしたままの秋彦にノートを見せた。
『そろそろ帰るよ』