羨望容姿
わずかな、変化
(なんで僕こんな時間によく知らない人んちにいてシャワー浴びてるんだっけ?)汗をかいた体にシャワーを浴びている事自体は気持ちがいいことであるが、なにがどうしてこうなったかが理解しきれない誠の頭は軽くオーバーヒートしていた。
汗を流し終え体を拭きながら着替えに目をやる。
目の前に置いてある撮影用の衣装を見ると自分が置かれた妙な立場を痛感してしまい思わずため息が出た。とはいえ誠にとってこの状況は、この上なく斬新で刺激的なものでもあった。
両親と同居している家と、親の紹介で働かせてもらっている雑貨店を往復するだけの毎日……それが誠の生活のすべてだったのだ。
そのことを不自由に思ったことはないはずだが、今自分が置かれている状況といざ向き合ってみると、いきなり訪れた“漫画的展開”に心の隅ではわくわくしている自分がいることに気付いてしまった。
(思えばここにこうしていることだけでも十二分にびっくりなんだよな、こういうのって楽しんだ者勝ちってやつなのか? ってなんだこれ? リンゴジュースってアルコール入ってたっけ?)
すでに徹夜特有の変なテンションに包まれている誠は着替えている間になぜか、すっかりやる気モードに切り替わっていた。
誠は、秋彦の一張羅を軽く着こなし、秋彦曰く“ファッション雑誌の人気ナンバーワンモデル”になってみせる。
「おー、似合う似合う……けど、そこは足りなかったか」
残念なことに誠の足首が裾からにょっきりと突き出していたのだ。
「しっかし、着る人によってこうも違うかねぇ」
秋彦は改めて誠を眺めた。
その整った顔はもちろん、風呂上がりでまだしっとりしている髪、胸を張り背筋を伸ばして立つ姿、秋彦には大きすぎるサイズでも足りない足の長さ……どう、ひいき目に見ても秋彦は誠が自分と同じ種族だということが信じられなかった。
「神様、この世ハ、不公平ニデキテイルノデスネ」
誠は困った顔で秋彦を見下ろす。
ペロッと舌を出していた秋彦は誠の顔を見てすぐに笑い出した。
「なーんてな! いいじゃんマジで。全身と顔のアップ、二枚でいいらしいけど余分に入れたいな。足もとはギターで隠せば何とかなる、よし! じゃ、あっちで撮るぞ」
唯一ポスターが貼られていない白い壁の台所に立ち、言われるままに誠はポーズをとった。
表情を変えてはシャッターを切り写真確認、そしてまた撮り直し、と繰り返してカメラの充電が切れた所でようやく撮影会は終了した。