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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第15話 遅れて来た道化師

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【2】 夜明け前、怪物の腕を持つ男

夜明け前の湖畔。


怪物が、尖った右腕を振り上げ――

碧めがけて、一気に振り下ろす。


―――碧は、静かに目を閉じた。


……そのときだった。


「グギャァァァァァ――!!」


悲鳴のような咆哮を上げたのは、怪物のほうだった。


碧が、おそるおそる目を開ける。

いつも猫背だった異形の背中が、まるで弓のように大きく反っていた。


怪物が、ゆっくりと後ろを振り返る。


碧も、腰をついたまま身を乗り出し――その先を見た。


そこに、ゆっくりと姿を現したのは――


「……龍信さん!」


立っていたのは、片腕の男――龍信だった。


彼は――もう一頭の怪物の“切断された右腕”を担いでいた。


丸太のように太いその腕の付け根を、右肩に載せ、抱え込むようにして支えている。

鋭く閉じた二枚爪の外側――平刃のない側面に腕を差し入れ、

怪物の手首を、ガシリと掴んでいた。


まるで、“凶器を携えた戦士”の姿だった。


龍信の掌には、恐ろしく尖った“二枚爪の腕”が握られていた――。


「悪いな。そんなに痛いとは思わなかった」


龍信は、終わらせるつもりだった。

その爪で、怪物の背中から腹へと――身体を貫くつもりだった。


だが、渾身の一撃でさえ――それでも貫通には至らなかった。

あまりにも分厚い、“あの外皮”が、最後の一線を阻んだ。


龍信は、振り返った怪物の――失われた左腕に目をやった。


「……お前も、片腕かよ」


口元に、皮肉な笑みが浮かぶ。


「おまえも、こっぴどくやられたみたいだな」


哀れむような顔をしたその瞬間、

目の前の“無様な姿”が、ふと――シャワールームでの自分と重なった。


その時だった。

怪物が、右腕を横から突き上げてくる。

龍信は即座に、抱えていた“自前の武器”でそれを受け止め、弾いた。


「これで、ハンデなし……いや、両目あるぶん、俺の方が有利か」


片目をつむり、怪物に向かってウィンクを飛ばす。


――その後方で、碧が、ふらつきながら立ち上がった。


「大丈夫か?」


龍信が、怪物を挟んで声をかけた。碧は、小さく頷く。

だが、“賀寿蓮組”の上着に包まれたその姿は、誰が見ても限界を超えていた。


(……あれからずっと、戦ってたのか)


龍信は――碧に対して驚きとも、畏敬ともつかない気持ちになっていた。


龍信が、強く握った“腕”を、真横から突き刺した。

怪物も即座に反応し、右腕を横からかぶせるようにして迎え撃つ。


――ガキィン!


金属のような、甲高く硬質な音を上げて、弾かれる。


右腕対右腕。爪と爪が、互いの刃をかち合わせる。

まるで剣士同士の鍔迫り合い。

力と力の押し合いに、どちらも一歩も引かない。


だが――龍信はすでに理解していた。


(……この硬い外皮は、貫けねぇ)


たとえ、この“(武器)”がどれほど鋭かろうと、

一撃で仕留めることはできない。

それほどに、怪物の身体は異常なまでに堅かった。


――次の瞬間。


怪物の右腕が、鋭く跳ねた。

そのまま、龍信の腹めがけて真っ直ぐ突き出される。


「っち……!」


龍信は反射的に体をのけぞらせ、ギリギリでそれを回避する。

怪物の爪が、服を裂き、腹の皮一枚をかすめた。

ヒヤリとした痛みと同時に、黒いシャツに血が滲む。


――ほんの一瞬でも遅れていれば、腹を貫かれていた。

致命傷だった。


(分が悪い……)


だが、それでも龍信は一歩も退かない。

その場に踏みとどまり、呼吸を整えると、周囲を素早く見渡した。


そして、怪物、その背後にいる碧へと視線を向けた時――。


ある“モノ”に、龍信の視線がぴたりと止まった。


(……あれを!)


一瞬だけ目で合図を送る――碧が気づき、振り返る。

そこには、荷台に鉄筋が山のように積まれた大型トラックが停まっていた。


龍信は怪物の腕を受け流しながら、わずかに身体をずらすと、

その隙に、低く抑えた声で碧に言った。


「こいつの弱点は……脇の下だ。

 おれが腕を上げさせる。そしたら――お前が、あれで狙ってくれ」


碧の目がわずかに見開かれる。


怪物が人間の言葉を理解できるかは分からない。

だが――龍信は、無意識に声を潜めていた。

どこかで、理解しているかもしれない――そんな“気配”を、龍信は感じていたのだ。


「……分かった。でも、龍信さんも――早めに逃げてね」


碧は短く告げると、左足を引きずりながら、トラックへと向かって走り出した。


「……早めに逃げて、って?」

龍信は片眉を上げて、首を傾げた。


一方の碧――その身体は、すでに限界を超えていた。

血に染まった作業着、動かぬ左腕、そして引きずる足。

だが、そんな状態などお構いなしに、

巨大なトラックの前まで辿り着くと、真上を睨むように見上げた。


――荷台は高かった。


鉄筋は、トラックの屋根から荷台にかけて、斜めに積まれていた。

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