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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第12話 果てし戦士へレクイエムを

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【5】 静寂の下、壁に凭れて泣いた男

轟音が止み、世界が静まり返った。

灰色の箱の中――源次と怪物が、底なしの海へ沈んでいく。


箱の深さは、およそ三メートル。

その三分の二を占める、ドロドロのセメントが、灰色の海のように広がっている。


いくら不死身の怪物でも――

ここから這い上がることは、不可能だ。


「翔太……! 石蓋をッ!!」


肩まで沈みかけた源次が、血に濡れた声で叫んだ。


腹を抉られてなお、彼は怪物の右腕を、絶対に離そうとしない。

沈みながら、怪物は狂ったように右腕を引き抜こうと暴れている。

だが、源次の腕は、まるで鉄の鎖のように絡みついていた。


「早くしろ! 翔太!!」


その怒声に、翔太はハッと我に返り、

石蓋を吊り上げている鎖の固定を、震える手で外した。


ガリガリガリガリ――――ガシャアアンッ!!


石蓋が落下した。


轟音と共に、巨大な石の板が蓋となり、

箱の口を――完全に封じた。


一瞬、部屋が、しん……と静まり返った。


石蓋の上から、何も聞こえない。

灰色の封印は、ただ無言のまま、そこにあった。



翔太が振り返ると、彗が血の海に倒れていた。

腕がなく、腹からは赤黒い熱がこぼれている。


「彗ッ!!」


翔太は、血まみれで倒れている彗に駆け寄った。


「彗、しっかりしろよ……!」


声を上げ、抱き起こす。


翔太は震える手で、採掘台の上の白い布を掴み、

歯で引き裂いて、腕と、腹に即席の止血帯にした。


「彗! 彗ぃッ!」


「……何だよ」


彗が、かすかに目を開けた。

その声は弱かったが、確かに“まだ生きていた”。


翔太は、あの泣き虫な彗が、

叫び声ひとつ上げていないことに、目を見張った。


「……壁は」


「え?」


「翔太、壁だよ……壁に連れてってくれ」


彗の言葉に、翔太は一瞬戸惑い、周囲を見渡した。


「あ、あの壁って……? でも、距離あるぞ……」


「……いいから……引きずって行ってくれ」


その口調が、あまりに落ち着いていたせいで、

翔太は逆らえなかった。


彼は、後ろから彗の両脇に腕を回し、

ずるずると――中庭に面した壁際まで、彗の身体を引きずっていった。


「寄りかからしてくれ」


言われるままに、翔太は彗の背を壁にそっともたれさせた。


その背中が壁についた瞬間、

彗は、ふぅ……と、小さく息を吐いた。


腕と腹からは、止めどなく血が流れている。

巻いた白い布は、もうすでに真っ赤に染まっていた。


「翔太……」


「あ、んっ……?」


「煙草、あるか……」


「煙草? 何フザけてんだよ。しっかりしろよ。……彗!」


翔太が、焦って彗の肩を揺する。


「翔太……煙草あるか……いや、違う、違う、違う……」


彗はぶつぶつと呟いたあと、

苦しげに首を横に振った。


「……ガスバーナー……! 隣だ、翔太……早く……っ」


翔太は目を丸くして、彗の顔を見た。

出血によるショックで、もう頭がいかれてる。――そう思った。


「鉄板を……焼いて……キャベツ……卵……」


「……料理だよ。そう、料理……」


声が、どんどん細くなる。


「彗……」


翔太が彗の肩を強く握った。


彗は、薄く笑った。


「……なぁ、翔太……」

「何だよ、今はしゃべんな!」


「やっぱ……おれ、格好わりぃな……死ぬ時まで……格好わりぃーな」


ぽろぽろと、大粒の涙が彗の目からこぼれた。

鼻水と血と汗と涙で、また顔がぐちゃぐちゃになった。


「……腹が、熱いよ……」


「死にたく、ないよ……」


その声は、もう子どものようだった。


「かぁーちゃん……おれ、死にたく……」


――言いかけたその瞬間。

彗の首が、がくんと力なく落ちた。


「彗ーっ! 彗ーッ!!」


翔太が、彗の頭を両腕で抱きしめ、

自分の胸元に押し当てる。


それでも――

彗は、もう二度と目を開かなかった。

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