表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第1話 激情の眠れぬ女騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/44

【4】 現地のざわめき、そして再来

中央道を下り、国道20号を北上すると――

左手に林を切り開いた広場が現れた。

朝の光を受け、濡れた土が鈍く光っている。


敷地の入口には仮設ゲート。

入ってすぐの駐車場には報道車両がずらりと並び、

クルーたちが三脚を抱えて走り回っていた。


奥の逆L字に組まれたプレハブ群――。

L字の縦部にあたる本部棟の中には、

チャンネル9の控室や研究室が並んでいる。

横部棟には作業員宿舎。

そしてその脇に、仮設トイレが設置されていた。


L字の内側――中庭にあたる空間が、

そのまま湖に面した“ステージ”となり、

巨大クレーンが四基、稼働している。


本部棟の内部――中央には、石箱を収めるための正方形の穴。

その脇には臨時の解剖室と洗い場が設けられ、

まるで“未知の事態”を想定したかのように準備が整えられていた。


<補足図:引き上げ現場>

挿絵(By みてみん)


――すべては、この一日のために。

現場全体が、呼吸する巨大な装置のように脈打っていた。


――◇――


碧が到着したときには、すでに現場はフル稼働していた。


駐車場には、各局の報道車両がびっしり。

クルーが三脚を抱え、ケーブル係が雨に濡れた地面を走り回る。

湖畔では四基のクレーンがアームを伸ばし、

まるで生き物のように現場全体がうねっていた。


「待ってましたよ!」


プレハブの扉を押し開け、カメラを抱えた男が駆け寄ってきた。

チャンネル9のカメラマン、風見麟太郎(かざみ りんたろう)


碧は白いポルシェを駐車スペースの端に寄せ、ハンドルから手を離した。

窓越しに見る麟太郎の顔は、いつもより五割増しで焦っている。


「六時五分。ギリギリセーフですね」

にこやかな麟太郎。だが碧は疲れ切った顔をゆっくりと向けた。


「プレハブ棟の左手です。七時から全体ミーティングなんで、碧ちゃんは――」


「シャワーある?」

「え?」


「シャワー!」

麟太郎は一瞬きょとんとし、慌てて腕を振った。


「え、えっと、プレハブには無いですけど……宿舎ならあると思います! 

 確認してきます!」


「部屋ってどこ?」

「そこの入口、すぐ左の個室です。“チャンネル9”の札が掛かってます!」


そう言い残すと、麟太郎はお腹を揺らしながら駆け去っていった。

ワイシャツの脇の下、湿気でしっとりと光っている。


――◇――


碧はバッグを引き出し、外へ出た。

ひんやりとした風が、夜明けの匂いを含んで頬を撫でる。

空を見上げて、大きく息を吸う。


顔を戻して見渡せば、報道車両の列。

その数はすでに百人を超えていた。

クレーンの先端が霧に霞み、照明灯が白く瞬いていた。


湖底から引き上げられる“石の箱”――

そのニュースはすでに全局のトップを飾り、

SNSでは「信玄の墓」「封印遺構」「JAPAN amazing」などのタグが躍っていた。

海外メディアも殺到し、「まるで新たな王家の墓の発見だ」と評されている。


支援企業は水篠物産、スポンサーはチャンネル9。

引き上げは国を巻き込む一大イベントとなっていた。

碧の担当は三時間特番のメインリポート。

その映像は、後に“決定版ドキュメント”として全世界へ放送される予定だ。


(……はぁ。眠気より、緊張の方が勝ってるかも)


バッグを抱え、プレハブへ向かう。

足元はぬかるみ。水溜まりを避けて歩くたび、靴底が吸い付くような音を立てた。

空には、水彩のような雲。

昨夜の雨の匂いが、まだ空気に溶けている。


そのとき――


ドオオンッ……!


地面が低く唸る。

腹に響く重低音が、林の向こうから迫ってきた。


碧は反射的に振り返る。


黒い。黒い塊だった。


十数台のバイクが編隊を組み、国道を外れて雪崩れ込んでくる。

アスファルトを焦がすような排気音。

湿った空気が鉄とオイルの匂いを含み、肌にまとわりつく。

空気ごと震わせる轟音が、林の枝葉を震わせながら迫ってきた。


その中央――

黒ずくめの大男が巨大なバイクに跨っていた。


碧の顔から、さっと血の気が引く。


(……あの男だ)


談合坂のサービスエリアで鉢合わせた、

異様な圧を放つ“親玉”。


(やっぱり仕返しに来たんだわ……!)


碧は一瞬立ちすくんだが、すぐに周囲に目を走らせた。

ここには報道陣もスタッフもいる。

あのときのように、彼女ひとりではない――


それでも、ただならぬ気配に背筋がざわりとした。


――◇――


この時――。


諏訪湖の底。

五百年の眠りを破るその瞬間が、静かに息づき始めていた。


だが、湖底の闇の中――

黒い影は、まだ動かない。

自らが目を覚ますことになるとは、

その“沈んでいる(かい)”すらも、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ