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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第11話 憤激に委ねる黒戦士

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【2】 鉄の鎧をまといて、再び地獄へ

源次は、軽トラックのドアを乱暴に開け放ち――

バックで全開に突っ込んだ。


ガシャァァン! 


鉄が悲鳴を上げ、夜が軋んだ。

ドアが、背後のブルドーザーのアームに激突した。

鉄とガラスが爆ぜ、破片が夜空に雨のように舞った。


源次は、その飛んでいったドアを拾い上げる。

残ったガラスを蹴り潰し、手早く内側の凹凸を叩き壊す。


そして――


鉄板と化したドアを、自分の腹に押し当てた。


「ぐっ……!」


血が喉に逆流した

鈍い痛みが右脇腹を駆け抜け、

折れた肋骨が、内側から臓腑を擦る。

視界が白く染まり、息が詰まる。


――それでも、動きを止めない。


「……こんなもん、気合でどうにかなる!」


奥歯を噛み締め、身体にロープを何重にも巻きつける。

ぎしり、と締まるたび、鉄板が肉にめり込み、血が滲む。


やがて、ドアの割れた窓から、源次の顔だけが覗いた。


まるで――即席の鉄の鎧。

無骨で、異様で、命知らずな戦装束。


源次は、荷台に積んであったチェーンソーを掴む。

林の伐採で使っていた、古い電動ノコギリ。


片手で持ち上げた瞬間――胸に激痛が走る。


砕けた肋骨が、内側から刺すように主張する。

息が止まるほどの痛み。

だが、それでも――手は止めない。


源次は紐を一気に引き絞った。


ギャリリリリ――ッ!!


刃が唸りを上げ、モーターの咆哮が夜気を裂く。


――ジジジジジジィィィィ!!


回転数が上がるたび、源次の息が荒くなる。

その鼓動とモーターの音が、同じリズムで荒ぶり始めた。


鉄の鎧をまとった男の前で、鋼の牙が唸りを上げる。

まるで――地獄の番犬が、主の怒りを代弁するかのように。


――◇――


龍信は、宿舎の入り口の壁に掛かっていた鍵束を掴み取ると、

中庭に出て叫んだ。


「彗、翔太! おまえらは採集室の石箱に、ミキサー車でセメントを流し込め!」


二人は驚きながらも、すぐ頷いて駆け出した。


碧には、安全な場所に隠れるよう促したが――


「いやよ。私にもやらせて!」


頑として引かない。

“安全な場所”など、もはやこの現場には存在しなかった。


碧は、ミキサー車に乗り込んだ彗の隣に座り、操作方法をざっと習った。


そして、ハイヒールを脱ぎ捨て、

龍信から受け取った鍵を握りしめると、もう一台のミキサー車へ駆け出した。


――彼女には、乗り物の操作に関して一点の不安もなかった。

なにせ、碧が足に使っているのは、かのパリ・ダカールラリーで伝説を残した、レース仕様の“ポルシェ959”――そのじゃじゃ馬なのだから。


翔太が倉庫から工具を抱えて戻る。

両手に、つるはしとスコップ。


龍信は無言でつるはしを受け取ると、

静かに採集室の方へ歩き出した。


「死なないでね!」


碧が叫ぶ。

だが龍信は振り返らない。

その背中はただ、闇の中へと吸い込まれていった。


――◇――


源次が、再び解剖室へ飛び込んだ。

――怪物は、部屋の中央で屈み込んでいた。何かをしている。


床には、テーブルから転げ落ちた、《武田信玄の首》があった。

怪物はその目前に身を屈め、まるで儀式でも行うような静けさで、それを見下ろしている。


日向助手は、テーブルの下敷きになって動かず、

麟太郎は、窓の外へ頭と腕を突き出したまま絶命していた。


その時――

怪物が、大きな口を開けた。

下顎がカクンと一段、外れるように沈む。

よだれのような粘液が床に垂れ、ぬめりと音を立てて広がった。


その奥――

喉の奥から、白蛇のような“舌”がにょろりと伸びてきた。

先端は二股に裂け、その内側には、サメのような鋭い歯が、二重に並んでいた。

まるでそれ自体が、別の生き物であるかのように。


その生きた舌がスルスルと宙を泳ぎ――

信玄の首に、噛みついた。


次の瞬間、舌は獲物を咥えたまま、シュルルルルと口の奥へと戻っていく。

そして怪物が――ガブリ、と、生首をひと呑みにした。


咆哮も上げず、咀嚼もせず、ただ淡々と、機械のように呑み込む。

そこには、執着というより――むしろ“使命”のようなものがあった。

まるでそれが、“果たさねばならぬ契約”であるかのように。


怪物は、何事もなかったかのように、ガクンと顎を元の位置に戻した。

そして――顔を向けた。


源次と、目が合った。


源次は、チェーンソーを振り上げた。


「グギャーゥオォォォ――!」

怪物が咆哮し、牙をむき出して立ち上がる。


「おまえに、“首が宙を飛ぶ痛さ”を教えたるわ!」


源次が、渾身の力でチェーンソーを振り下ろす。

怪物は、爪を閉じた右腕を横にかざし、それを受け止めた。


ギャリギャリギャリギャリ――ッ!


熱風が頬を焦がし、鉄と血の匂いが混ざった。

高速回転するチェーンソーの刃が、怪物の鋼鉄のような爪に叩きつけられて、火花を散らす。


モーター音に、爪に擦れるチェーンの(ひめい)が重なった。

鼻を刺すような、焦げた鉄と油の匂いが室内に充満する。


源次は、ありったけの力を込めて、両腕で刃を押しつける。



だが――


怪物の右腕一本が、それをあっさりと押し返してくる。

まるで、“それがおまえの全力か”とでも言いたげに。

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