【3】 湖底に眠る、誰かの意図
――記録映像。
ナレーション
「三か月前、諏訪湖の中央湖底において、異様な構造物が発見された」
――映像:濁った湖水に、直方体の巨石が沈む。
――字幕:《調査第1日目・水深18m》
ナレーション
「一見、それは自然の岩塊にすぎない。
だが、水中カメラが照らし出したその表面には――
四つ並んだ菱形の模様が浮かび上がっていた」
――クローズアップ。
――字幕:《武田家家紋 “風林火山”に酷似》
調査員
『石箱です!……神童博士の想定通り、間違いありません』
――◇――
《調査報告書・抜粋》
構造名称:諏訪湖底 石箱構造物
発見者:跡見大学 神童時貞教授チーム
ナレーション(朗読調)
「外箱――第1層、大型石箱。
横幅12.36メートル、奥行20メートル、高さ3.50メートル。
そのサイズは、小型のビルに匹敵する。
一枚岩をくり抜いた直方体で、上蓋の中央に直径2メートルの穴。
接合部はなく、高度な石工技術を示す」
「さらに、ミューオン透視解析によって――内部にもう一層、
直方体の箱型構造物が存在することが確認された。
縦横7.5メートル四方、高さ2.8メートル。
外箱の内部に密着して収められていて、動かない。
外蓋の穴から覗く内蓋部分は“脆い石”で造られている」
「ただし、その内部については、いまだ不明。
意図的な二重構造――“何かを封じたものではないか”との見解も出ている」
――◇――
――映像:地元新聞の見出し。ざわつく住民インタビュー。
ナレーション
「“信玄の財宝だ”“いや、信玄を葬った石櫃だ”――地元は騒然となった。
メディアも動き、テレビ局・チャンネル9は特番制作を決定。
特番は、人気レポーター・白鳥碧に託された」
――◇――
――映像:大学のキャンパス。講義を行う若い教授の姿。
――字幕:《跡見大学 歴史考古学 神童時貞(28)》
ナレーション
「この発見のきっかけを作ったのが、跡見大学の神童時貞教授です」
――映像:父・神童勘明の写真。
――字幕:《父 神童勘明・世界的考古学者》
――インタビュー映像。
研究仲間と思しき老男性が、静かに語り出す。
背後には研究室の書棚と積み上げられた資料。
知人の声
「時貞教授は二十八歳。
まだ若いですが、すでに学会では注目されていました。
ただ……その説は常識外れで、奇抜と呼ばれることも多い。
だから、正統派の学者からは異端視されがちでした」
「とにかく学者らしくないんですよ。
ラフな格好で、人懐っこく軽口を叩いて……。
けれど、その奥には、常人には及ばない思考の深さがある。
ある意味、達観しているんです」
――資料映像:父・神童勘明の肖像。
モノクロ写真に字幕:《世界的考古学者》
知人の声(続き)
「世界的に名が知れている父の勘明先生は、長男を諦めていたようでした。
“後継は次男に託す”と公言していて、時貞教授もそれを望んでいます。
彼は出世や名誉には興味がない――そういう人ですから」
――諏訪湖の全景をヘリから俯瞰。湖面に朝日が反射する。
知人の声(締め)
「……それでも、現実は皮肉なものです。
今回の“諏訪湖の石箱”という未曾有の大発見の先頭に立っているのは――
間違いなく、その“気ままな異端児”である彼なんですから」
――画面はフェードアウト。
――次のシーンへ。
――◇――
――映像:諏訪湖全景をヘリから俯瞰。
――字幕:《昭和62年7月13日(金) 午前9時、引き上げ開始!》
ナレーション
「そして本日九時。
全てが謎のベールに包まれた、戦国時代の石箱の引き上げ作業が始まる。
現場では、各局の報道サイドは息巻いていた。
その中でも、チャンネル9は、建物内の独占中継を許されている」
――映像:会議室。スタッフの声。
『風林火山の刻印がある以上、信玄と無関係とは思えない!』
『戦国の謎を解く歴史ミステリーとしてゴールデン枠でいける!』
――◇――
――映像:石箱を吊り上げるための重機のシルエット。
ナレーション(声を低く落とす)
「だが、五百年前――誰が、何の目的で、この構造物を湖底に沈めたのか。
その答えは、まだ誰にもわかっていない」
――画面暗転。




