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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第9話 貴公子の初陣

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【4】 逃げ道の在処、唯一の愚者

源次は、時貞を背にかばい、

鉄のテーブルを両腕で振り抜いた。


――ギィィィンッ!


火花が散り、怪物の爪と金属がぶつかり合う。

衝撃が腕の骨まで響いた。


その背後――

ハーフ顔の考古学者・時貞が、震える声で叫ぶ。


「博士っ、こいつに弱点は!? 火とか! 犬とか! 塩とか!?」


「……犬?」

怪物の背後から、田辺博士が険しい顔で応じた。

「そんなもん知るか! だが、一つだけある」


「ど、どこですか!」


「――《脇の下》だ」


「く、くすぐるんですか!?」


「違うわッ!!」


博士の怒声が跳ねた瞬間、

怪物の腕が再び空を切り裂いた。


「教授……少しは真面目に」と、源次がぼそり。

「す、すみません……」


博士が再び口を開く。

「死んでいた個体の左脇下。三本の矢のうち一本だけが深く刺さっていた。

 おそらくそこだけ皮膚が薄い。肋骨の奥――胸の“顔”の裏に心臓があるはずだ」


「なるほど、脇の下から貫けば――急所としては合理的ですね」

時貞が頷いたが、怪物の咆哮がその声をかき消した。


――グギャアアァァッ!


金属音と獣声が混じり、部屋全体が振動する。

博士は一歩踏み出そうとして、やめた。

恐怖ではなく、間合いの精度が読めなかった。


「教授! なんか“妙案”は!」

源次が叫ぶ。


「あるにはありますが……博士!」

「なんだ!」

「奥のレーザーメス! あれでこう――バーッと光線出して、メトロン星人みたいにスパッと!」


両手を広げてジェスチャーする時貞。

彼の頭の中では、怪物がレーザーで真っ二つになる“理想映像”がスローモーションで流れていた。


博士の顔が一気に曇った。

首を横に振る。無言で、冷たく。


「えっ……あ、ジョークです! ギャグですギャグ!!」


空笑い。だが横の源次が鋭く一瞥。

その眼差しにはこう書いてあった――「ほんとに今それ言う?」


気まずい沈黙。

それを破るように――時貞が再び天井を仰いだ。


中央にぶら下がる鎖。それを吊るすウインチ。

鉄筋で強化した両柱。


「源さん! この部屋、火災報知器とか!?」

「無いです!」


「セコム的なやつは!?」

「残念ながら、それも!」


その直後、金属音。

――ギャリィンッ!

怪物の爪がテーブルを弾き、火花が飛んだ。


(外部連絡は無理か……)

時貞は唇を噛む。


視線を這わせる。天井、鎖、鉄骨、配電盤。

その奥で――チカッ。


(ん……?)


赤い光が瞬いた。

柱の横――解剖台の後ろに。


〈REC〉。


「……おいおいおいおいおい!!」

時貞の怒声が響いた。


「なにカメラ回してんですかッ! 手伝ってくださいよ!!」


ファインダーの陰で、麟太郎がびくっと体を震わせる。

指で自分を差し、「……ぼく?」


「そう! あんたぁぁぁ!!」


「嫌です」


「……え?」


「嫌です。二度とないチャンスです。

 ――“命より映像が貴重”なんですよ。

 ぼくの義務は報道です、戦場のカメラマンが銃を持ちますか?」


目が光っていた。興奮と狂気の色。


「こ、こいつ……!」時貞は言いよどんだ。


「ぼくたちが殺られた後は、今度はあんたが殺されるんだぞぃ!」

と、時貞の語尾が、ほんの少しゾイ調になってしまった。


その話す途中で――麟太郎が指を振った。

「チッ、チッ、チッ」と口で3回音を立てて、自分の背後を指さす。


その先、麟太郎が指を差した後ろの壁には、《《窓があった》》。――電圧板の横である。

麟太郎は、いざとなったら自分だけ、窓から外へ飛び出して、逃げることを考えていた。


「……逃げ道、確保済み、っと♪」


「おわ、なんだこいつ。ありえねぇー!」と、時貞の唇が歪んだ。


「教授、 無駄ですよ。あいつ、自分のことしか考えてません」

源次が首を振った


源次は、怪物の攻撃に防戦一方である。

鉄板で何度討ちのめしても、怪物には微塵も効いた素振りが無い。

その逆に、怪物の一振りで、こちらの首が飛ぶ。

――明らかに割の合わない、不利な戦いであった。

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