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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第9話 貴公子の初陣

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【2】 断罪の爪、血の試し斬り

怪物の右腕――三枚の爪がぴたりと閉じ、先端は鋭く尖っていた。

その形は、まるで巨大なドリルのようだった。


「グゥオォォォォォーーッ!!」


牙をむき出し、獣のような咆哮。

その瞬間、右腕が唸りを上げ――丹波めがけて振り下ろされた。


「うわあっ!」


丹波は、手にしていた折りたたみ式のパイプ椅子を盾のように構えた。

金属と金属がぶつかる、甲高い音。

衝撃が腕に突き刺さる。

椅子の脚が軋み、火花が散る。


部屋の隅では、日向がへたり込んでいた。

焦点の合わない瞳。震える唇。

彼女はもう、何も理解できていなかった。


田辺博士は――

手にした巨大なペンチ状の器具で、剥ぎ取った鋭利な平爪を挟み込んでいた。

狙うは、怪物の腹。

一瞬の隙を見て、それを突き立てるつもりだ。


臓物の散らばる解剖台の陰――

麟太郎は、額に玉のような汗を浮かべ、カメラを構えていた。

レンズの奥では〈REC〉の赤い点が淡く光り、震えていた。


そこへ――

さきほどの時貞に続いて、源次が解剖室へ飛び込んできた。


「何が――っ!」


視線の先に立ちはだかる“それ”を見て、彼の足がほんの一瞬止まった。

人ひとりよりもはるかに分厚い黒い胴体、異様に隆起した両肩。


源次の体格は、現場でも“でかい”と評判だった。

だがそれでも、怪物の肩の位置は、彼の頭より高かった。


その時だった。

怪物がいきなり、大股で前進してきた。


丹波の顔が恐怖に歪む。。

壁際までじりじりと後ずさったが、もう逃げ場はなかった。

手にしたパイプ椅子を、一心不乱に振り回した。


怪物は、静かに一歩、後ろへ退いた。

そして――右腕を、真っ直ぐに下ろす。


次の瞬間、


〈シャーッ〉――乾いた開閉音。。

肘の付け根あたりから、一枚の平爪が音を立てて開いた。

それは腕に対して垂直に、体の外側へ――横に張り出す。

まるで、昆虫の広げた羽のようであった。


丹波は、歯を食いしばってパイプ椅子を振り上げる。

その瞬間――

怪物の右腕が弧を描き、空気ごと宙を切り裂いた。


**視界が赤く染まったのは、ただ一瞬。

**断末魔の声すら、上げる暇もなかった。


天井。壁。床。

一瞬で、そのすべてが鮮血に塗り潰された。


〈ザシャーン〉。

丹波の足元に、パイプ椅子が落ちた。

――その両腕とともに。


続いて、眼鏡をかけたままの丹波の生首が、

その上に、ころりと転がり落ちた。


そして彼の体は、

まるで自分の首を抱き締めるように、その上に膝から崩れ落ちた。


血が滲み、床を這い、壁を染める。

赤が赤を飲み込み、静かに部屋を満たしていく。

音が――消えた。


放心した日向が、目の前に落ちた生首を見て、

短く息を飲み――そのまま意識を失った。


〈パーン、パーン……〉

源次が慌てて、怪物の背中に発砲した。

銃声は虚しく、壁に吸い込まれる。



「……今の音、銃?」

湖畔で、碧が振り返る。

夜気の中、静寂を裂いた小さな爆音。


「……銃声?」

龍信は答えるより早く、すでに駆け出していた。

碧もその背を追う。

――湖の静寂が、戦場の胎動に変わっていった。


銃弾は当たったのか?逸れたのか?

それとも――体内に呑まれたのか。


源次には、もう分からなかった。

ただひとつ確かなのは。


「……全然、効いてねぇ……!」


何発撃っても、微動だにしない。


「グギィヴァォォォォォーッ!!」


怪物が振り向いた。

口を大きく開き、獣のように吠える。

よだれが糸を引き、床に落ちた。


そこへ――


金属を引きずる音。

ズルズルと何かを引きずりながら、男が走り込んでくる。


「教授!?」

源次が声を上げた。


時貞だった。

手にしていたのは、建築資材の鉄筋。

直径十五ミリ、全長二メートル。

両端が重みでたわんだ、無骨な鉄の棒。


「なにしに来たんです!?」

源次が眉をひそめる。


「なにしにって……」

時貞は顔を赤くし、震える腕で鉄筋を構えた。

「ぼくだって……男なんだからな!」


その姿は――

華奢な体にハーフ系の顔立ち、

まるで“ファンタジーの小国の王子様”のようだった。

風に飛ばされそうな王子が、鉄の槍を抱えて立っていた。


「……あれ?碧ちゃんは?」

きょろきょろと辺りを見渡す。


「外に出て行きました!」

麟太郎の声が奥から飛ぶ。


「……あ、そ。」

肩を落とす時貞。

鉄筋を抱えたまま、ため息。


その姿に、誰もが一瞬、言葉を失った。

――だが、戦いは終わらない。

血の匂いが濃くなり、夜が唸る。

“獄禍”が、ふたたび咆哮を上げた。


五百年の封印が、完全に破られたのだ。

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