表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2

日向ヶ原で迎える初めての朝は、光の洪水だった。


 玄関を出た瞬間、思わず目を細める。

 灰街の朝光なんて“ほぼ無色”だったけど、ここの太陽は金色だ。

 空気中の粒子がキラキラと舞って、葉が自然に開こうとしてしまう。


 「……ほんとに毎日こんな感じなんだろうか」


 胸に手を当てると、鼓動がいつもより元気だ。

 日照に慣れてないから、少し緊張と高揚が入り混じる。


 通学路は、灰街の狭い路地とはまるで違っていた。

 左右に並ぶ“葉道”と呼ばれる歩行者用の細道には、大小さまざまな植物系の生徒たちが歩いている。

 青々とした葉、鮮やかな花、堂々と伸びる蔦──

 これが上位層の色彩か、と圧倒される。


 「おはよー! 今日も最高の日照!」

 「昨日より2LUX高かったんだよね〜!」


 ずっと聞いたことのなかった明るい挨拶が、そこかしこから飛んでくる。


 ……灰街じゃ、“今日のLUX”なんて誰も気にしてなかったのに。


 校門の前に着くと、巨大なアーチが目に入った。

 半透明の樹脂でできていて、朝日が当たると虹色に光る。

 その奥に見える校舎は、外壁が全面光反射構造。

 まるで巨大な花のように太陽へ向かって開いていた。


 ──日向台学院。

 これが、俺の新しい学校。


 校門をくぐった瞬間だった。


 「きゃっ!」


 誰かとぶつかった。

 軽い衝撃。慌てて前を見ると、一人の女子生徒が尻もちをついていた。


 「あっ、ご、ごめん!」


 急いで手を差し出す。

 彼女は驚いたように瞬きをしながら、その手を取った。


 その瞬間──


 ふわっと、甘い香りがした。

 花の香り。いや、彼女自身の“開花前フェロモン”だろうか。


 「……えっと、大丈夫ですか?」


 「うん。ありがとう。びっくりしちゃっただけ」


 立ち上がった彼女は、光を浴びて葉先が透明に輝いていた。

 髪は淡い黄緑色で、朝日に照らされるたびきらりと光る。

 制服の胸ポケットには、ピンク色の小さな蕾が揺れていた。


 上位層特有の、明るく鮮やかな色彩。

 眩しくて、声を失った。


 「もしかして、新入生……だよね?」

 彼女は首をかしげながら言った。

 その表情は、人懐っこい猫みたいに柔らかい。


 「う、うん。今日から転入で……灰街の方から」


 そう言った途端、彼女の目がぱっと開いた。


 「灰街!? 本物? 初めて見た!」

 「え、あ……うん、本物……だと思う」


 恥ずかしくて耳が熱くなる。

 彼女は俺の葉をじっと観察して、うんうんと頷いた。


 「色は薄いけど……形はすっごく綺麗。ちゃんと育てた葉なんだね!」


 褒められ慣れてない言葉すぎて、どう反応していいかわからない。


 「私は陽葉ひのは! 二年一組だよ!」

 「俺も……二年一組。ルイ、です」


 「同じクラス! よろしくね、ルイ!」


 そう言って笑った陽葉の笑顔は、太陽より眩しかった。


 ──この子と同じクラスか。

 この世界で最初に出会った同年代。

 なんだか、ちょっとだけ運命みたいだと思ってしまった。


■ 転校初日の教室


 陽葉に案内される形で、二年一組の教室に入った。

 扉を開けた瞬間、空気の密度が変わる。


 教室全体が、光に満ちている。


 俺の知っている“部屋の中”ではない。

 天井の一部は透明樹脂、窓は全方位太陽光を取り込む構造。

 まるで温室みたいだ。


 そして、生徒たちの葉色が……本当に眩しい。

 黄緑、濃緑、青緑。

 元気で、鮮やかで、瑞々しい。


 灰街では一生見られない色ばかりだった。


 「転入生、来たみたいよ」

 「噂の灰街出身?」

 「へぇ、本当にいるんだ……!」


 こそこそと声が聞こえる。


 俺は一瞬足が止まったけど、陽葉が背中を軽く押してくれた。


 「大丈夫だよ。みんな優しいから」


 その言葉で少しだけ勇気が出る。


 教壇の前に立つと、担任の先生がにこやかに頷いた。

 葉の色が深い、熟成した大人の緑だ。


 「それでは、今日から二年一組のクラスメイトになる転入生を紹介する。前へ」


 ……来た。

 俺は深呼吸をして、一歩前へ出る。


 「灰街から来ました、ルイです。えっと……よろしくお願いします」


 一瞬の静寂の後、教室がざわめいた。


 「灰街……すごい」

 「本物だ……!」

 「こんな薄色の葉、初めて見た……!」


 その声には差別的な色もあったけど、好奇心の方が強かった。


 そして──


 「ルイ、こっちこっち!」


 陽葉が明るく手を振って、自分の隣の席を指した。

 その笑顔に救われて、俺も自然と足が向いた。


 席に着いた瞬間、窓から朝日が差し込む。

 俺の葉がふるふる震えて、久しぶりに暖かく開いた。


 灰街では、こんな感覚、一度もなかった。


 ──ここから、俺の新しい青春が始まるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ