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行バスを降りた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
東の空が、やけに眩しい。
“朝”って、こんなに明るかったっけ。
生まれてからずっといた灰街は、ビルが密集していて、日の光なんてほとんど地上まで届かなかった。朝の通学路は、いつだって人工ライトの白い明かりが頼りだったし、太陽は高層ビルの隙間に細く切り取られた光の帯でしかなかった。
けど、ここ──日向ヶ原は違う。
空が広い。
風が通る。
そして太陽が、痛いくらいまっすぐ降り注いでくる。
「……これが、上位層の“朝”かよ」
右腕の葉──俺たち植物系の種族にとって最も大切な器官──が、勝手に震えて開き始めていた。
ちょ、待て。こんなに朝から吸光したら酔うって。
眩しさに目を細めていると、迎えに来ていたらしい母さんが笑いながら声をかけてきた。
「ルイ、どう? 空気も光も、向こうとは全然違うでしょ?」
「……うん、すごい。なんか世界が広いっていうか」
言葉にすると軽く聞こえるけど、本当に別世界だった。
灰街じゃ、光合成なんて“生きるための作業”でしかなかった。
でも今は──光を浴びてるだけで頭が軽くなる。胸の奥がじんわり温かくなる。
これが、本物の太陽か。
「今日からここがルイの家よ。学校の手続きも全部済ませてあるから」
母さんが指さした先には、信じられないほど開放的な家が立っていた。
全面ガラス張り、南向き完璧、屋根には太陽を受けるための反射プレート。
灰街のタワーマンションと比べるのが失礼なくらい、広い。
「……本当にここ、住んでいいの?」
「いいのよ。お父さんもやっと“日当たりのいい職場”に転属できたんだもの」
そう言いながら母さんは笑ったけど、その裏にはたぶん、俺たちがどれほど“影”の暮らしに耐えてきたかがある。
日照権を持つ土地。それが富。
光合成量がステータス。
それがこの世界──フォトクラシーのルールだ。
俺たちは、やっと影から光へ出られた。
「……よし」
太陽に向かって、俺は小さく息を吸い込んだ。
今日から俺は“日向台学院”の転入生になる。
上位層の子たちが集まる学校。
鮮やかな葉色を持つエリートたちの場所。
灰街出身の俺が、その中でどう見られるのかなんてわからない。
だけど、この光に照らされていると──
なんとなく、何かが変われる気がした。
新しい青春が、ここから始まる。




