第6話 春華殿の舞
翌日。春華殿の広間は、いつになく賑やかだった。
蘭貴妃明玉の提案で、舞の稽古が行われていたのだ。
「舞と言っても、難しいものではありません。軽く体を動かし、姿勢を整える程度ですわ」
明玉はにこやかに告げる。
希望者は誰でも参加できる。女官も侍女も、さらには下女までもが、恥ずかしげに列に並んでいた。
良家の娘としての教養の一部である舞の基本は、簡単な手の動きや足さばきが中心。無理強いはしない、と明玉が最初に言ったので、皆が安心して参加していた。
明玉がゆったりと腕を広げ、腰を傾けると、女官たちも見よう見まねで形を真似る。
「まあ、楽しいですこと」
「娘々のおかげで体が軽うございます」
笑い声があちこちから上がり、春華殿は和やかな空気に包まれた。
その中に――なぜか宦官の周守謙まで混じっていた。
女官たちの列にひょっこり入り、白い腕をしなやかに動かしている。
化粧を施さずとも女顔の彼は、まるで舞姫のひとりのように馴染んでいた。
「……周殿まで?」
明玉は苦笑をこぼす。
舞の稽古のあとは、新しく増築された大きな湯殿へ。
順番に湯へ浸かる女官たちの頬は紅潮し、楽しげに談笑が広がる。
春華殿全体が、ひとつの家族のような空気になっていた。
湯上がり、涼しい風を受けながら、周守謙が明玉に小声で囁いた。
「人を把握するには、このような場が一番でございます。誰が誰と仲良くしているか、誰が何を考えているか……」
明玉はおっとりと笑みを浮かべ、首を横に振る。
「わたくしにとっては、そんなことより皆が健康であることの方が大事ですわ」
その言葉に、周守謙は一瞬言葉を失い、そして肩を竦めて笑った。
春華殿には、また新しい風が吹き込み始めていた。




