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第4話 春華殿の夜

その夜。貴妃宮・春華殿。

奥の静かな部屋で、牀に熙帝允成と蘭貴妃明玉が並んで腰を掛けていた。

帳の向こうには灯りがゆらめき、外の池からは虫の声が細やかに響いている。


とくに明玉は笑い転げていた。

普段は穏やかでおっとりした彼女にしては珍しく、目の端に涙をにじませ、胸を押さえて笑い続けている。


「明玉、笑ってないで、なにがあったか教えてほしいんだが」

呆れたように允成が言う。


「申し訳ありません、陛下。ですが……お話しようとすると、皇后陛下の泣き叫ぶお顔を思い出してしまって……」

言うなり、また堪えきれずに肩を震わせた。


允成は深くため息をつき、少し声を落とす。

「とりあえず、そなたは皇后に呼び出されて坤寧宮へ行ったわけだな?」


「はい」


「そこで、皇后が泣き叫んでいたと?」


「はい」


「……何を泣いていたんだ?」


「へ……蛇が……くすくす……大きな蛇が、部屋の中を這い回っておりましたの……」


明玉の肩が再び震える。

允成は半ば呆れ、半ば面白がりながら眉をひそめた。

「ああ、なるほど。それで王皇后がびっくりして泣き叫んでいたのか。……しかし、なんで蛇が皇后の居間にいたんだ?」


「そこは、周殿が坤寧宮の女官たちから聞き出してくれました」


「周守謙か」


「はい。周殿は後宮の女官や侍女たちから絶大な人気がおありで、なんでも聞き出してきてくださって、本当に助かっております。それで蛇ですが……どうやら石賢妃さまが、部屋に投げ込んだそうですわ」


允成は思わず目を見張った。

「賢妃が? 冷静そうな女性だと思ったが、意外だな」


「事情がございますの。坤寧宮の侍女たちが、賢妃さまの侍女たちに酷い嫌がらせをしたとか。目下の者たちの訴えをきいて、ご自身で意趣返しをなさるなんて……素敵な方ですわ」


「石家は、並ぶものなき武門の家柄だからな……」


允成の声には感嘆と苦笑が入り混じっていた。


明玉はふっと真顔に戻り、小さく手を合わせる。

「今日は、皇后娘々から、わたくしが陛下のご寵愛を独占していることでお説教を頂くはずでございましたのに……賢妃さまのおかげで命拾いをいたしました。なにかお礼ができればよろしいのに」


そのおっとりとした言葉に、允成は笑みをこぼし、隣の彼女の肩を軽く叩いた。

「……そなたは十分すぎるほど礼を尽くしている。何より、こうして私の隣で笑ってくれていることが一番の報いだ」


明玉の頬がほんのり赤く染まり、笑いの余韻とともに、二人の夜は穏やかに更けていった。

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