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第3話 炎陽殿の侍女

まだ新しい後宮が立ちあがって間もないころのこと。

炎陽殿――石賢妃の住まう宮殿では、侍女たちが洗い上げた衣を竹竿にかけ、乾かしたものを大切に抱えて戻る途中だった。


だが皇后の居所、坤寧宮の前を通ったそのとき、突如、桶いっぱいの泥水が頭上から浴びせられた。

白絹の衣はたちまち泥に染まり、侍女たちは悲鳴をあげる。

楼閣の陰から顔を覗かせた坤寧宮の侍女たちは、嘲るようにくすくす笑い、すぐに姿を消した。


泥に汚れた衣を抱えたまま、炎陽殿の侍女たちは泣きながら戻り、主である石賢妃に訴えた。

涙ながらに語る声を、賢妃は黙って聞いていた。表情は微動だにせず、やがてひとこともなく立ち上がると、庭先へ歩み出ていった。


――同じころ。


蘭貴妃・明玉は皇后王綺華から呼び出され、春華殿から坤寧宮へと向かっていた。

入り口に差しかかったその時、宮奥から複数の悲鳴が響いてきた。

ただ事ではないと悟った明玉は、随従の宦官・周守謙と顔を見合わせ、小走りに奥へ進む。


ちょうどその時、坤寧宮の廊下から石賢妃が裾を翻して走り去っていく姿が目に入った。

(いったい何が……?)


取次を頼む間もなく、明玉は皇后の居室へと足を踏み入れた。


そこは修羅場だった。

広い寝殿の中を、大蛇がうねうねと這い回っている。

光沢を放つ鱗が屏風を擦り、女官たちは金切り声を上げながら四散し、皇后自身も青ざめて座り込んでいた。


「だれか! なんとかしてーーーーーー!」


皇后の絶叫に、明玉は無表情のまま一歩踏み出した。

「かしこまりました、皇后娘々」


次の瞬間には蛇の尾を踏み押さえ、両手で素早く頭を掴み取っていた。

大蛇は体をのたうたせたが、明玉はひるまず抑え込む。


「つかまえました、娘々。これをどういたしましょう?」


「蘭貴妃! なんでもいいから、それをどこかへ連れていって!」


「わたくし、皇后娘々に呼ばれて参ったのですが……」


「今日はもういいわ! とにかく! はやく! それをどこか連れていって!」


「はい、ただちに。それでは退出させていただきます」


華やかな衣の裾を正し、明玉は蛇を抱えたまま深々と一礼した。

その姿の静けさと対照的に、坤寧宮はなお女官たちの悲鳴と混乱で満ちていた。

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