すれ違いの正体は、僕の心。君に似たヒロインのこと
教室に朝の光が差し込んでいる。
いつもと変わらない日常。
国語の授業。廊下に響く笑い声。昼休みの購買列。
でも、僕の中では、どこかが確実に変わり始めていた。
「……恋愛って、なんなんだろう」
ふと、窓の外を見ながらつぶやく。
数日前、“なろうタウン”の恋愛通りで、3人のヒロイン候補と再会した。
そのときは“創作”の話だと割り切っていたけど――たぶん、違う。
あの子たちが持っていた感情は、僕が過去に感じたことの模写だったんだ。
廊下を歩くと、少し先に人だかりができていた。
「雨宮さーん、明日の予備校の件だけどさ……」
「プリント、また助かったよ!」
クラスのマドンナ、雨宮凛杏。
いつも微笑んで、誰にでも平等で、距離感が絶妙で。
たぶんクラスの男子の半分以上が一度は恋心を抱いたことがあると思う。
……僕も、そうだった。
でも、それを“認める”のが怖くて、
いつの間にか、その想いを創作に変えて逃がしていた。
『転生勇者の自治都市開拓記』――
その作品で僕が書いていた、真面目で芯のある女騎士・アメリア。
あのキャラには、“守られてばかりじゃない凛とした女性像”を込めた。
……そうだ。あれは、雨宮さんへの想いの変形だったんだ。
想いを打ち明けられなかった僕は、その感情をどこかに残しておきたくて。
でも直接は書けなくて、“騎士”という仮面を被せた。
アメリアを“正面から愛する”物語にできなかったのは、
現実で僕が雨宮さんを見つめることすらできなかったから――なんだ。
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僕は教室の窓際に座って、手帳を開いた。
「誰かを好きになるってことは、
その人に“名前”をつけることじゃなくて、
“その人だけの輪郭”を見つけることなんだと思う」
名前のついていない、未完成のヒロインたち。
彼女たちが僕に求めていたのは、
「どうして彼女を好きになったのか」という、僕自身の感情だった。
“好き”っていうのは、
ただの出来事の連続じゃない。
たったひとつの仕草。たった一言の言葉。
そして――“諦めた瞬間”までが、恋なんだ。
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その夜、僕の机の上に、またあの切符が置かれていた。
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【恋愛ジャンル:すれ違い回廊】
「……行こう」
今度は、ちゃんと自分の気持ちを連れて。
誰かのことを“好きだった”という、
あの過去の僕も一緒に――