修羅場アリーナ! “好き”の形と感情の殴り合い
「ここが……修羅場アリーナ?」
ピンクと赤のライトが交差するドーム型のステージ。
ハート型の観客席では、恋愛ジャンルのキャラたちがざわめき、熱気が満ちていた。
「ようこそぉ〜♡」
高らかにマイクを掲げるのは、恋愛通りナビゲーター・NAROちゃん(ギャルver)。
相変わらず金髪ギラギラ、テンション高めだ。
「本日のステージは〜! “動き出せなかったヒロインたちの逆襲バトル♡”
あんたが“書こうとして、やめた”あの恋愛ネタ、ここに集結よ!!」
「……僕、恋愛モノなんて書いたことないんだけど……」
「だから逆に“未遂キャラ”が一番たまってんの! 本気で書こうともしないで、“照れ”とか“自信ない”とかで途中放棄。
それ、キャラたちからしたらマジ地雷行為♡ さあ、出てきな、被害者ヒロインズ!!」
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眩い光の中から現れたのは、3人の少女。
どこかで見た気がするけれど、誰ひとりとして“完成していない”。
1人目は、リボン付きのセーラー服にポニテを揺らした幼なじみ候補。
手にはバスケットボール。元気そうに見えるけど、表情は不満げだった。
「“昔からずっと好きだった”って展開、やってみたかったんだけどなぁ?
“ありがち”ってボツにしたの、アンタだよね?」
2人目は、静かに文庫本を抱える図書室の女の子候補。
目を伏せながら、呟くように言う。
「……“眼鏡キャラは地味すぎる”って、そう言って私を消したの、あなたですよね?
……でも、ちゃんと、“誰かを好きになる予定”は、あったんですよ」
3人目は、明るい髪色でちょっとツンとした空気のツンデレ風ヒロイン候補。
手には、生徒会の腕章。
「“会長キャラとラブコメ”って設定まで作って、途中で設定メモごと消したわよね?
あのとき、結構、期待してたんだから……!」
「…………」
胸が痛い。
どれも、ノートに“書こうとして、でも恥ずかしくなって消したアイデア”たちだった。
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「恋愛ネタなんて……最初から“無理”って、どこかで思ってたんだ」
僕は素直に言った。
「“誰かを好きになる理由”なんて分からないし、
どうやって書けばいいかも分からないし、
“こんな話誰が読むんだ”って、自分で勝手に否定してた」
キャラたちは、何も言わない。
でもその目は、まっすぐ僕を見ていた。
「でも、今なら分かる。
“書けなかった”んじゃなくて、“逃げてた”んだって。
感情を考えることからも、キャラのことを掘り下げることからも……全部、避けてた」
だからこそ、彼女たちは“物語になれなかった”。
“感情”が与えられる前に、消えてしまった。
「……ごめん」
僕は深く頭を下げた。
「でも、もし許してくれるなら――今度こそ、“君たちのこと”を、ちゃんと書きたい」
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その瞬間、3人のヒロインたちは柔らかく笑った。
「……期待してるよ?」
「今度はちゃんと、最後まで見ていてくださいね」
「“好き”を、私たちにも教えて?」
光に包まれて、彼女たちは僕の中へ戻っていく。
NAROちゃんが、ハートのクラッカーをパンッと鳴らした。
「おっけー☆ これにて“失敗キャラたちの慰霊祭”、無事終了〜〜!」
「……慰霊って言うな」
「だって事実じゃーん♡ でもさ、ここからがホンチャンだよ? “動かす”の、アンタでしょ?」
「……うん。次は、書いてみせる」