(小説パート)さんしょの木の下で、君は何を見たか?
登場人物
高山 日菜子
高校2年生。学級委員。真面目で面倒見がいい。
日向 透
高校2年生。日菜子のクラスメイト。おとなしいが観察眼が鋭い。
西村 拓真
近所の住人。気さくで明るい性格。
山崎 美桜
高山家の隣人で花好きの主婦。日菜子とも親しい。
その他、近隣住民や通行人
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■本文
高山日菜子の家の前には、小さな“さんしょの木”が植わっている。
春には香り、夏には葉をつけ、秋には静かに落ち葉を落とす。
いつもの通学路。
いつもの家。
いつものさんしょの木。
でも――その“いつも”は、ほんの少しだけズレていた。
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1. 始まりは、見慣れた風景
「最近さ、変なことって思わない?」
そう言ったのは日向だった。
「変なこと?」
「毎朝通る時にさ、日菜子ん家の“さんしょの木”の下……何かおかしいって、気づかなかった?」
「え、あれ? いつもどおりじゃ……」
「いや、“いつもどおり”じゃないんだ。たとえば――落ち葉」
「落ち葉?」
「この三日間ずっと、同じ形の葉が、同じ場所に落ちてるんだよ」
日向の言葉に、日菜子ははっとした。
確かに――あの三つ葉の影、少し曲がった枝先、土の上の葉の位置。
それは、見慣れていたはずの“自然”のはずなのに、“不自然な規則性”があった。
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2. 日常に潜んだ違和感
そこから、日向と日菜子は日々観察を始めた。
日菜子の家は不在がちだが、留守の間にも“さんしょの木の下”だけは不思議と変わらない。
だがある朝、異変が起きる。
「……葉が、ない」
さんしょの木の根元――あの決まった位置に、いつもあった“葉”が消えていた。
代わりに、ほんの少し土が掘り返されたような痕跡。
(……誰かが、何かを埋めていた?)
日向が低く呟いた。
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3. 写真と記憶
「これ、見て」
日向はスマホを差し出した。
そこにはここ数日の、さんしょの木の写真が並んでいる。
確かに、葉の位置、枝の影、周囲の草……すべてがまったく同じ。
「つまり、毎日“誰かが意図的に”再現してたってこと?」
「たぶんね。じゃないと、影まで同じになるなんてあり得ない」
そして――
「写真をよく見て。日菜子、何か気づかない?」
「……え?」
「最初の一枚にだけ、写ってるものがある。それ以降には――一度も、ない」
それは、さんしょの木の奥、遠くにあるはずの――
「隣の山崎さん家の窓、カーテンが閉まってる」
「……!」
「最初の一枚以降、誰かがずっと閉めてる。もしくは――最初の一枚が、もう“おかしかった”って可能性もある」
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4. 嘘を積み上げた犯人
話を聞いていた西村さんが、不意に笑った。
「まさか、高校生に見抜かれるとは思ってなかったよ」
「……え?」
「いやね、山崎さんの家……彼女、もう引っ越してるんだ。1週間前に」
「えっ……でも、姿見たって人……」
「全部、僕が演じてた。“いつもどおり”に見せるためにね」
西村さんはため息をつく。
「山崎さんの家の契約書、うっかりうちが預かったままだったんだ。返しに来たけど不在でね。変に置いて盗まれても困るし、“庭に埋めておく”ことにしたのさ」
「……それが、さんしょの木の下」
「で、その上に毎朝、落ち葉を置いて“元通り”に見せかけたわけ」
日菜子と日向は顔を見合わせた。
「たったそれだけの“違和感”から、ばれるもんなんだな……こりゃ、たいしたもんだよ」
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エピローグ
日常は、ほんの少しのズレで、真実を隠す。
それに気づくかどうかは、いつもの風景を“どれだけちゃんと見ていたか”にかかっている。
さんしょの木は、何も言わずに立っていた。
その下で、今日も葉が一枚、風に揺れて落ちていく。
> “いつも見ている”は、“ちゃんと見ている”とは違う。
ほんの少しだけ、目の角度を変えてみよう。
『さんしょの木の下で、君は何を見たか?』
――答えは、きっと、君の中にある。




