表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/57

練る寝るねれんね。トリック案が思い付かない

「――でさ。次回までに“使えそうなトリック案”を持ってこいって話だったよな?」


放課後の教室、安宅くんが僕の机に肘をつきながら覗き込む。


「……うん、まぁね」


「で? 進捗は?」


「ゼロです」


「潔くてよろしい!!」


そんな笑い合いの中にも、焦りがにじんでいた。


(どうしよう……本当に、何も浮かばない)


共犯? アリバイ? 叙述トリック?

ひと通りの“定番”は頭に浮かぶ。けど――


(“それっぽい何か”ばかりで、手応えがない……)


僕が書こうとしているのは、“観客を巻き込む謎解き演劇”。


物語としても、舞台としても成立しつつ、観る側が「なるほど!」と唸るような仕掛けが必要だ。


(うう……ミステリーって、こんなに難しかったっけ……?)



---


そのまま帰り支度をしていると、コウダが声をかけてきた。


「おいユウ、また難しい顔してたな。今度はどんなネタで詰まってんだよ」


「文化祭の脚本班で、トリック案考えてるんだけど……詰まり中」


「お、ミステリー!? 観客を巻き込む系? カッコイイじゃん!」


セキネがノリノリで乗ってくる。


「そういうの得意な人間はな、たいてい“人の嘘”に敏感なんだぜ? つまり俺だな」


「お前は逆に騙される側だろ……」


ノジマの的確なツッコミが飛んできた。


「ヒントぐらいになればいいんだけどな。昔、俺が観た舞台では、“死んだはずの人物が舞台裏で演じ続けてた”っていうネタがあってさ――」


ノジマの口調が少し真剣になる。

意外にも、彼は昔から舞台に通じていたようだった。


(……案外、使えるかも)


頭の中で、ひとつメモを取る。



---


その日の放課後、ふらっと図書室に立ち寄ると、雨宮さんがカウンターで本を返却しているところだった。


「……佐藤くん。悩んでる顔」


「え、顔に出てました?」


「うん。ミステリーのことでしょ?」


どうしてわかるのかと思ったけど、すぐに気づいた。


僕の手に、ミステリー小説の資料を挟んだノートがあったからだ。


「私が読んだ中で、一番ぞくっとしたのは、“犯人が最初から舞台にいた”ってやつだった」


「……ああ、読者の目の前にね。なるほど」


「けどね、“トリック”だけがミステリーじゃないと思うよ」


「え?」


「“なぜ人は嘘をつくのか”って掘っていくと、だいたい人間ドラマになる。それがちゃんとあると、どんなトリックでも輝く気がする」


そう言って雨宮さんは、そっと一冊の文庫を差し出した。


> 『疑うこと、信じること』


「……これは?」


「最近、おもしろいと思ったミステリー小説。よかったら読んでみて」


雨宮さん。相変わらず優しいな。

せっかくなので、その本を借り、家で一晩中読み明かすことにした。



---


翌日、眠気まなこで教室に入ると霜降さんが待ち構えていた。


「……佐藤、なにその顔。朝からだらしのない顔ね」


「いやー、これは寝不足で……」


「はん!どうせ夜更かしして何か考え事でもしてたんでしょ?」


「おー、さすがは委員長」


「なにが、さすがよ」


霜降明香音。うちのクラスの委員長。

面倒見はいいけど、僕は彼女に振り回されがちだった。


「文化祭の脚本で詰まってるって、雨宮さんから聞いた。……“謎解き演劇”、だっけ?」


「うん、それで“トリック案”が全然出なくて……」


霜降さんは、少し眉をひそめて考えこむと――


「“どこで間違ったのか、思い返すことがトリックになる”。……聞いたことある?」


「……誰の言葉?」


「テレビに偶然出てた脚本家が言ってたの。犯人を描くんじゃなくて、観客の記憶を利用する方法。伏線も回収も、全部“あとから効く”作りにして」


「……なるほど」


彼女が差し出したのは、小さなメモ紙。

そこには簡単なプロット構造と、思考の導線が整理されていた。


「迷ったら、何を“見せるか”より、“何を見せないか”を考えてみるといいんじゃないの。……じゃ、がんばりなさいよ」


口調は相変わらずきついけど、間違いなくそれは“助け舟”だった。


(……こういうとこ、ほんと委員長だよな)


思わず、背筋を伸ばして礼をしたくなる感覚だった。



---


そして土曜日の夜。

ベッドに寝転び、天井を睨みながら、僕はぐったりしていた。


(ミスリード……? いや、それじゃ展開が読めるし……)


(裏切り……? でもキャラが薄いと効果も薄い……)


ノートに描かれた走り書きのプロットは、どれも中途半端に止まっている。


「……ぐぬぬぬぬ……」


ベッドの上でのたうつ高校生男子ひとり。


(観客の“予想の裏をかく”って……つまり“予想させる前提”が必要なんだよな……)


答えだけじゃない。問題の立て方すら、わからなくなってくる。


(あ~~~~~もう!!)


勢いでノートを閉じ、天を仰ぐ。


その瞬間――

どこかで、風鈴のような音が鳴った気がした。



---


気づけば、世界が“切り替わって”いた。


まぶたの裏が、白から色に変わっていく。


目を開けると、そこは――


「……おかえりなさい、創作の旅人さん」


肩までの黒髪を揺らす彼女。胸元に文庫本を抱えた姿は、あの日と変わらない。


「君は……文学ジャンルの……」


「ええ、また会えましたね」


文学NAROちゃんは、静かに微笑んだ。


「ミステリーに迷っているなら、案内しましょう。物語の“核心”へ」


差し出された手。その奥、霧の向こうに古びた看板が見える。


【ミステリー通り】

~真実と虚構の交差点~


「さあ、今夜は“問い”を深く掘る夜にしましょう」


その声に導かれるように、僕は一歩、足を踏み入れる。


(今度こそ、“観客が驚く仕掛け”を……)


霧の奥で、本格的な謎解きの夜が、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ