脚本班始動、トリックと台詞のはざまで
放課後、文化祭企画班の活動日。
僕は体育館裏のプレハブに向かっていた。
今日は、いよいよ“脚本班”としての初会議。
あの「謎解き演劇」の筋書きを決めていくのだ。
(いきなり話し合いって言われてもなー……)
まだ脚本班のメンバーとも、きちんと話せていない。
しかも、あの後輩ふたり――月城さんと一ノ瀬さんもこの班に来るらしい。
名前と役割は知ったものの、まだよく分からない存在だった。
「……お、ユウ。来たな」
先に来ていた安宅マコトが手を振る。美術班なのに、なぜか普通に顔を出している。
「気になってさ、脚本班。出だしは大事だろ?」
「……ま、ありがたいけどさ」
そんなやり取りをしていると、プレハブのドアが開いた。
「せんぱ~い♡ お待たせしましたっ」
月城ひより。明るい茶髪に猫目。今日も笑顔全開。
その後ろから、黒髪ロングの一ノ瀬瑠花がついてくる。
「……遅れてすみません」
目つきは鋭いが、声は落ち着いていて静かだった。
そして、脚本班の残り数名もやってきて、会議が始まった。
「じゃあ……“謎解き演劇”ってことで、まずは大まかなあらすじから?」
班の誰かが切り出すと、月城がすかさず反応した。
「やっぱ“事件”ですよね! 殺人とかじゃなくても、何か盗まれるとか!」
「それなら“日常の中の小さな違和感”とかをヒントにするのもありかも」
一ノ瀬がぽつりと補足する。
「たとえば、ちょっとした“言い間違い”とか、“落ちてた物”が、後で伏線になる感じ」
(……このふたり、ただ目立つタイプってだけじゃないんだな)
アイデアを出す姿勢がまっすぐで、しかもちゃんと“ミステリー”として筋が通っている。
「ユウ、お前も何か案ある?」
安宅くんに背中を押されて、僕もメモを開いた。
「えっと……観客が一緒に考えられるように、“犯人が一人とは限らない”って構造もアリかなって。たとえば……共犯とか、ミスリードとか……」
「……おお、いいじゃん。混乱させようぜ、観客」
「ふふ、それ、センパイ得意そう」
月城がくすっと笑い、一ノ瀬は黙ってノートをめくっていた。
あらすじ案、事件の種類、登場人物の数。
様々な要素が飛び交いながら、脚本班の第一回会議は熱を帯びていく。
気づけば1時間が経っていた。
「今日は……ここまでにしようか」
天堂院先輩が顔を出して、声をかけてくれた。
「来週の月曜日までに、“使えそうなトリック案”を各自で用意しておいてくれると助かるよ」
プレハブの空気が、ふっと落ち着いた。
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「じゃ、また次回ね~、センパイっ」
月城が手を振って去っていく。
一ノ瀬は会釈だけして、後をついて行った。
「……可愛い後輩ってだけじゃないな。お前、けっこう鍛えられそうじゃん?」
安宅くんがにやりと笑って肩をたたく。
「そっちも、美術班で忙しくなるだろ」
「だな。けど楽しみだよ。文化祭って、やっぱこの準備期間が一番ワクワクするからさ」
それは、僕も思っていた。
言葉を選び、謎を組み立て、伏線を張る。
創作の醍醐味が、いままさにここで始まっている気がした。
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その夜。僕はまた、「小説家になろう」のページをぼんやりと見ていた。
“秋のチャレンジ:ミステリー祭”のバナーは、変わらずそこにある。
(……もう少し、考えてみようかな)
演劇脚本のためでもあるし、創作のためでもある。
いまこの秋の空気の中で、何か新しい物語が生まれる気がしていた。




