恋愛通りは波乱万丈!?“感情”と“地雷”のジェットコースター
再び、なろうタウンに戻ってきた。
前回の旅から、しばらく時間が経っていたけれど、あの“切符”が届いたとき、迷いはなかった。
ただ――。
「……どのジャンルに進もうか」
“自分の物語を”と言われても、具体的に何を書くかなんて、まだ決めていない。
ジャンル通りの入口が並ぶ広場で、僕は足を止めたまま、各区画を眺めていた。
異世界ファンタジー、ミステリー、SF、ホラー、現代ドラマ、歴史大河……
それぞれの通りのゲートには、特徴的な装飾が施され、訪れる作家やキャラたちの熱気があふれている。
その中で、ふと目に飛び込んできたのは――
【恋愛ジャンル通り】の門だった。
ハートを模したアーチ、きらきらと舞うピンクの光粒。
どこか気恥ずかしいような、立ち入りづらい雰囲気。
でも、なぜか足がそちらへと向かっていた。
「……恋愛、かあ」
僕は、恋愛小説を書いたことがない。
ラブコメ漫画を読んだことはあるけど、それくらいだ。
いざ自分で書こうとすると、「どうしてこの人を好きになるのか」とか「気持ちの変化」が全然わからなかった。
そんな僕が、恋愛を“書ける”んだろうか――
「ちょっとちょっとぉ、門の前でウジウジ悩んでんの、そこのキミ〜〜〜!」
声がした。上から。
見上げた僕の視界に飛び込んできたのは、派手な羽根をひらめかせて空を滑空してくる小さな妖精だった。
「ようこそ恋愛ジャンル通りへッ! 専属ナビゲーターのNAROちゃん・ギャルver、降☆臨ッ♡」
金髪巻き髪、ネイルキラキラ、リボンにピンクのアイシャドウ。
口調はギャルそのもので、テンションは常にMAX。
「え……あの、どこかでお会いして――」
「それ、異世界通りのウチの妹分じゃん? あの子まじめすぎてツマんなくない? こっちは恋愛、感情爆発、地雷大発生のカオスゾーンだから、テンション上げてこー!」
彼女はぴょんっと僕の肩に飛び乗ると、ぐいっと指をさした。
「で、キミ、さては恋愛小説書いたことない“ガチのチェリー”でしょ?」
「えっ、ちょ……ちょっと待って……!」
「ほら図星☆ キミみたいなの毎回来るのよ。“恋愛書いてみたいけど書けない”っていう、感情力ゼロ男子! で、すぐ逃げる! あるあるぅ♡」
痛い。刺さる。けど言い返せない。
「……ほんとに、僕みたいなのが、恋愛小説って書けるんですか?」
「書けるかどうかじゃなくて、“向き合えるかどうか”なのよ♡」
くいっと顎を上げて、NAROちゃんが言う。
「恋愛って、“感情”のジャンル。登場人物の“好き”とか“すれ違い”とか、“言えなかったひとこと”とか、そういうのをちゃんと感じ取って、言葉にできるかどうか」
「……感じ取る……」
「そう! 読者がキュンするかどうかじゃなくて、まずはアンタが“この気持ち、なんか分かる”って思えるかどうか♡」
「なるほど……」
言われてみると、これまで僕が書いてきた物語には、あまり“感情”という要素がなかった気がする。
行動と展開、設定とルール。
でも、「気持ち」に向き合ったことは、なかった。
「じゃ、いくよー♡」
そう言うと、NAROちゃんが光の魔法陣を描く。
「えっ、もう? まだ心の準備が――」
「チェリーには強制召喚♡ “恋愛トラウマ”の具現化、スタート!」
「トラウマってなに!? えっ、ほんとにちょっと待っ――」
僕の視界が、またピンク色に包まれた。