ミステリーイベント開始とアイデア会議再び!
夏休みが終わって数日、放課後の余韻が少しずつ静けさに変わっていく頃。
僕は部屋の机に向かい、何気なく「小説家になろう」のサイトを開いた。
(さて、そろそろ新作でも……)
画面のトップには、なにやら新しいバナーが目に入った。
【秋のチャレンジ:ミステリー祭】
今こそ、あなたの中の“謎”を解き放て!
テーマは“日常に潜むミステリー”。
鮮やかなトリック、緻密な伏線、そして……真実はいつも一つ!?
――皆さまの挑戦、心よりお待ちしております。
「ミステリーかぁ……」
イベントに興味がないわけじゃないけど、今の自分にとってはあまり関係ない、そんな気がした。
文化祭準備が始まり、安宅くんとも再び関わる日々。創作の時間も限られる。
(ま、今回はスルーかな)
僕はページを閉じ、新しい小説のネタを考えながら、ノートにメモを取り始めた。
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数日後、文化祭企画班の2回目の集まりが行われた。
体育館裏のプレハブ教室に、十数名が集う。そこには安宅マコトの姿もある。
「今日は前回出た出し物のアイデアを、ちゃんと決めていこうと思います!」
進行役の3年生女子の呼びかけで、班員たちは円卓を囲んで着席していく。
安宅マコトが僕の隣に腰を下ろし、軽く肘でつついてきた。
「今日も新しい話、考えたか?」
「うん、まあ……ぼちぼちね」
「よし、その創作力、ちゃんと企画に使ってもらうからな。脚本係、期待してんぞ」
「まだ決まってないよ、それ……」
彼の期待の言葉に僕は苦笑いした。
会議が始まるとみんなが一斉に意見を言い始めた。
「カフェ形式の展示!」 「ビジュアルメインのホラーブース!」 「演劇をやっても面白いかも」 「文化祭って言ったら屋台じゃね? 食い物!」
出るわ出るわ自由な意見の嵐。
「そうだ! お化け屋敷系もやりたいって声あったな!」
「……でも、どうせならただのホラーじゃなくて、ストーリー性を入れたいかも」
「演劇と組み合わせたらどうかな?」
出し物案は次々と出てくるが、なかなか決め手に欠けていた。
「こうなったら投票か?」
「でも案だけで投票すると、説明力がモノを言いすぎるぞ」
「つまりプレゼン力で決めろと!?」
「それこそ“推理で勝負”じゃないか?」
そんな中、ホワイトボードの前に立っていたのは、ひときわ爽やかな雰囲気の男子。
「俺、天堂院 駆。3年で、演劇部です。
こういう文化系の企画、得意なんで。よかったら、まとめ役、やらせてください」
自然に拍手が起こり、みんながうなずいた。
(……すごいな、この人)
完璧に“文化祭リーダー”の雰囲気をまとっている。
「それなら、演劇ベースで、謎解きを絡めるのはどう?」
天堂院先輩がそう提案すると、場の空気が変わった。
「演劇……と見せかけて観客を巻き込む?」「なるほど……“謎解き演劇”か!」
みんなの顔が一斉に明るくなる。
「やりたい!」「面白そう!」「探偵っぽい役とかやってみたいかも!」
ひとまず今日のところは――
「出し物は“謎解き演劇”に決定で!」
大きな拍手と笑い声がプレハブに響いた。
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「じゃあ次は、班内での役割分担をしていこうか」
ここからは、また小さな戦場が始まった。
「私、衣装やります!」「俺は演出に興味あるな~」「美術得意だから道具係希望で」
僕も何をやろうか迷っていると、ふいに天堂院先輩が声をかけてきた。
「佐藤くん、ストーリー作るの得意って聞いたよ。 よかったら脚本班に入ってくれるかな?」
天堂院先輩が笑顔で言ってきた。
周囲もそれに気付いたのか「あ、それならいいかも」「頼りになりそうじゃん」と声があがっていた。
(……この空気、逃げられないやつだ)
「え、ええと……がんばります」
断れない空気に笑顔で答える。
その奥の方を見ると、安宅くんがこちらにサムズアップしていた。
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そして、それぞれの役割が決まっていった。
リーダー:天堂院 駆(3年生)
美術:安宅マコト他数名
脚本:佐藤ユウ(僕)他数名
演出/衣装/広報など、他班員たちが分担
リーダーの天堂院先輩が各班に指示を出していく。
「じゃあ、脚本チームは次回、あらすじと犯人・トリック案をいくつか出せるようにしてきてください」
(うわ、早速宿題だ……)
ふと気づくと、プレハブの片隅で小声で話す1年生女子がふたり。
茶髪の元気そうな子と、黒髪ロングの無表情な子。
どちらも何かとこちらを観察しているような気配はするけれど、まだ名前も知らない。
(あの子たち、いったいどんな担当になるんだろう……)
今はまだ、話しかけるタイミングも掴めず、ただ静かに横目で眺めていた。
ーー
「じゃあ今日はここまで。次回は班ごとに動き始めましょう!」
天堂院先輩の号令で、文化祭企画班の顔合わせは解散となった。
謎解き演劇という大枠が決まり、ようやく始まった文化祭の準備。
その裏で、あのミステリーイベントの告知が、じわじわと心に残っていたことに、僕はまだ気づいていなかった――。




