【番外編 NAROちゃんズの日常 その壱】ジャンル会議とナビの憂鬱
なろうタウン――そこは、創作を愛する者たちが集い、ジャンルという名の世界を旅する者たちを導く“ナビキャラ”たちが住まう、創造の街。
その中心に位置するジャンル管理棟では、今日もまた三人の少女たちが、ある意味で世界の命運を握っていた。
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「ふぁぁ〜……今日の報告書、また“追放モノ”が増えてるわね〜」
金髪巻き髪、ピンクのアイシャドウがキラリと光る恋愛ジャンルNAROちゃん、通称・恋愛NAROは、大きなあくびをしながらデスクに積まれた紙をぱさぱさとめくる。
「ふむ……“俺を追放した王国は滅びる運命にあるらしい〜最強魔導士は田舎でスローライフ〜”。ジャンルタグは……恋愛……って、ちょっと! これ恋愛要素どこよ!?」
「お嫁さんができるんだってさ」
蝶の羽をきらめかせながら、異世界ファンタジーNAROちゃん、通称・異ファンNAROが自席でくるくる椅子を回している。
「村娘のエリーゼちゃんが“あなたのごはんがいちばん美味しい”って笑うシーン、私は推せたな〜。あれだけで恋愛タグ認定でしょっ☆」
「単に飯がうまいだけじゃないの……?」
静かな声が部屋の奥から響いた。黒髪セーラー服姿の文学ジャンルNAROちゃん、通称・文学NARO。今日も紅茶を傍らに、タイプライター風の端末で作品チェック中だ。
「これは、そうですね。
スローライフに恋の香りを添えた、やさしい混合種。
分類としては“異世界ファンタジー”が主旋律で、“恋愛”は、調和を添える副旋律になるでしょう」
「知ってるよっ! でもさ〜、せっかくなんだし、もっと恋愛エピ強化しよーよ。そういえばサトウも誰かとくっついてくれてもいいんじゃない〜?」
「勇者・サトウのことですか。
彼の言葉には、まだ、ふわりと揺れる“迷い”の気配がございます。
焦らずに、物語の風が、進むべき方向を選ぶまで見守ってあげましょう」
「それがいいんだよね〜!」
恋愛NAROが手を握りしめる。
「最近はこっちにもあんま顔出さないみたいだし、いろいろと順調だといいな!」
「それはさておき、今日の業務会議、始めます!」
異ファンNAROがピッとホログラム端末を立ち上げる。
「本日担当する“新着小説アドバイス”案件は12件。“ジャンルタグ誤分類チェック”が30件。“ジャンル相談室”には、また来てるよ? “吸血鬼と人外の恋愛って異世界に入るの?”って質問」
「入る時と入らない時があるやつだ……」
恋愛NAROが頭を抱える。
「っていうか、多すぎじゃない? 読むの!」
「読むという行為は、言葉と心の対話です。
一つひとつの物語が、生まれるまでの時間を想えば、丁寧に向き合うことが、わたしたちの務め、でしょう」
「読め。導け。ジャンルの名のもとに」
文学NAROが立ち上がり、手に分厚い本を抱える。
「私たちNAROは、創作者たちの灯火。ジャンルを超えて、彼らの道を示す……」
「おお、今日も詩的〜」
「異ファン、あなたは“冒険モノ”の二次チェックにまわって。恋愛は相談室担当、私は文学ジャンルの新着を監修いたします」
「了解〜! じゃ、いってくるねっ!」
異ファンNAROはぱたぱたと羽を揺らし、ファンタジー館へ飛んでいった。
「しょーがないな〜……じゃあ、今日も私が“恋の悩み受付嬢”やりますかぁ……♡」
恋愛NAROはスマホ片手ににっこり笑い、恋愛館の窓口へ向かう。
文学NAROは残された部屋で一人、静かにパネルを眺めながら呟いた。
「勇者・サトウ。
彼は、また新たな出逢いの中で……物語の“種”を蒔いているようです。
やがて、これから始まる“舞台”の上で……その種が、どんな花を咲かせるのか。
静かに、楽しみに、見守っていましょう」
その声は、まるで本の余白に書かれた詩のように、静かに部屋に響いた。
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こうして今日も、NAROちゃんズは創作の裏で静かに(ときに賑やかに)働いている。
彼女たちがいなければ、このなろうタウンは――いや、物語そのものが成り立たないのかもしれない。
読者がページをめくるたびに、どこかで彼女たちが囁いているかもしれない。
「――さて、次の物語はどんなジャンルで、どんな結末を迎えるのかしらね?」




