甘い声と鋭い視線、文化祭の出し物決め
放課後、少し肌寒くなってきた風が校舎の隅を抜けていく。
僕はプレハブの仮設会議室に向かっていた。そこでは、文化祭企画班の“顔合わせ”が行われる。
(……夏が終わって、もう秋か)
どこか懐かしい感情が胸に残っていたのは、ここに安宅マコトがいると知っていたからだ。
中に入ると、真っ先に目が合ったのはその本人だった。
「お、佐藤」
「……やっぱり、いたか」
安宅は、少し照れたように、でもどこか懐かしい友人に会ったような笑みを浮かべていた。
「創作合宿以来、だな。あの原稿、俺まだ読み返してるよ」
「僕も……あの夜のこと、思い出す」
「ふっ、柄にもなく青春したからな、俺たち」
冗談っぽく言いながらも、どこか照れくさそうな安宅の言葉に、僕は頷いた。
夏の合宿で語り合った物語のこと、創作について本気でぶつかったこと。
それがあったからこそ、今ここに、少しだけ自信を持って来られている。
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「えーっと、それじゃあ、文化祭企画班、今年の初回ミーティング始めまーす!」
進行を務めるのは、3年生の女子。
さばさばした口調と仕切り慣れた様子に、周囲からも安心の空気が流れる。
「まずは、みんなで“やりたい出し物”を自由に提案してみましょう。ルールとかはあとで決めるので、ジャンル問わずどうぞ!」
ざわざわと、意見が飛び交いはじめる。
「謎解きイベントやってみたいなー」 「演劇と展示を組み合わせて世界観を見せる、とか」 「カフェ+朗読劇って、どうですか?」 「怪談ブースで実際に怖い思いさせるの、絶対ウケるって!」
アイデアが次々と出てくる中、僕はホワイトボードにそれらを書き留めながら、ふと後ろの方に視線をやった。
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後列の席で、静かに話しているふたりの女子がいた。
ひとりは明るい茶髪、低めの身長、くるくると動く目元がやたらと印象的で――とにかく元気そう。
もうひとりは、黒髪ロングで無表情に近い顔つきの少女。
それでいて、目だけは妙に鋭く、周囲を冷静に見ていた。
どちらも、部活には所属していないぽかった。
けれどこの文化祭企画班には、自分の意思で参加してきたとのこと。
茶髪の子が何か耳打ちすると、黒髪の子が微かに目を細めて「……それはやりすぎ」と返していた。
(なんというか……あの二人、絶対ただ者じゃない気がする……)
まだ話したことはないけど、直感でそう思えた。
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「はい、それじゃあ、今日はこんなところにしておきましょう!」
ひと通り意見が出尽くしたところで、3年生の先輩が声をかけた。
「次回、みんなで今日出た案を整理して、どれをやるか決めます。もし案を練り直したい人は、個人的に紙にまとめてきてもOK!」
「ふふ、これで“推し案プレゼン合戦”だね」
誰かが言って、軽く笑いが起きる。
僕は出されたメモや案を回収しながら、ふと、ある付箋に目を留めた。
【演出×謎解き=没入型シアター】
「“答えがわからない”ことも物語になる」
(……? これ、誰が書いたんだろ)
ふと視線を上げると、教室のドアの近くで、ひよりと瑠花がこちらを見ている――気がした。
どちらともなく、すっと視線を逸らされる。
(気のせい、かな……?)
でも、なんとなく胸の奥で、さっきの言葉がひっかかって離れなかった。
「じゃあ、次回のミーティングでまた!」
解散の声とともに、班員たちはばらばらと会議室を後にしていく。
隣を歩く安宅がぽつりと呟く。
「面白くなりそうだな。なんとなく、そう思った」
「……うん。僕も、ちょっとだけそんな気がする」
まだ見ぬ何かが、確かに始まりつつある。
秋の風に背中を押されるように、僕たちはそれぞれの帰路についた。




