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夕暮れの潮騒、言葉と視線と双眼鏡

夕方。日が落ちかけた浜辺には、日中の喧騒が嘘のように静かな時間が流れていた。

海風が少し涼しくなり、波の音だけが耳に心地よく届く。


僕は雨宮さんと霜降さんと一緒に、砂浜をゆっくりと歩いていた。

少し前まで、バーベキューで大騒ぎしていたとは思えないほど、静かな時間だった。


「……足、砂まみれになっちゃった」


雨宮さんが苦笑しながらつぶやくと、霜降さんが笑った。


「だから言ったでしょー。ビーサンじゃなくてクロックスにしとけって」


「でもそっち、見た目は完全にサンダルじゃないじゃん」


「見た目より実用性! 戦う女子に必要なのは機動力!」


「戦ってないでしょ……」


そんなやりとりに、僕は思わず笑ってしまった。


やがて、話題がふっと途切れる。


「ねえ、佐藤ってさ」


霜降さんが、不意に真面目な顔をした。


「前に、追試勉強会の時も思ったんだけどさ。なんか、誰とでもうまくやれるよね。そういうとこ、ちょっとずるい」


「え、ええ……?」


「悪い意味じゃないよ。なんか、安心するっていうか、油断するっていうか」


「……私も、そう思うかも」


隣で雨宮さんが静かに口を開いた。


「いつの間にか、いろんな話してたし……霜降さんと一緒にいたときのことも、なんか……ちょっと気になっちゃった」


「それは……あの、僕もただ巻き込まれてただけというか……」


「うん、わかってる。だから……変だなって思ったの」


雨宮さんの声が、少しだけ揺れていた。


「“わかってる”のに、なんで、ちょっとだけモヤッとするんだろう、って」


(……ああ、そうか)


僕たちはまだ、どこかで手探りしてるんだ。

誰かの好意とか、距離とか、そういう曖昧な気持ちを。


波打ち際に立つ三人の影が、少しだけ重なって揺れた。



---


「ねえ、来年もさ――こういうの、またやろうよ」


霜降さんが、夕陽に照らされながら笑う。


「夏とかじゃなくてもいいけどさ。バカみたいなことして、ちょっと本音しゃべって……そういうの、またやろ」


「……うん、やろう」


「約束ね」


三人で指切りするような雰囲気になって、笑い合う。


潮の匂いがして、空は金色に染まっていた。



---


そのあと僕は、喉が渇いて自販機を探して浜辺の遊歩道へ出た。


ふと、海辺の岩場の陰で、なにかしゃがみ込む人影が見えた。


(……え、あれは……)


麦わら帽子。長髪。

見覚えのあるその姿――早乙女静流先輩だった。


しかも手にしているのは、双眼鏡。


(なんで双眼鏡……)


視線の先を追うと、そこには、砂浜で水をかけ合いながらじゃれ合う

細マッチョのイケメン二人組。


(あー……あー……あー……)


> 「……美しき友情、否、これは宿命の共鳴……!」


> 「どこまでも尊い……二人はきっと、背負うものを分け合って……」



(ポエム始まってるー!!)


僕はそっとその場から引き返した。

砂を踏みしめないように、忍び足で。


(これは……見なかったことにしよう)



---


再び浜辺へ戻ると、夕陽は海の向こうへ沈みかけていた。


いつか、あのイケメンたちの尊い物語が静流先輩のペンで形になるのかもしれないけど――

それは、それとして。


今は、僕たちの夏を胸に刻もう。


きっとまた、こんな風に笑い合える日が来るから。

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