君の横顔、花火の音にまぎれて
夏祭りも終盤。
境内の灯りが徐々に落とされ、代わりに空を見上げる人々のざわめきが広がっていく。
「そろそろだな……」
誰かがつぶやいたその瞬間。
――ドォン!
夜空が割れた。
漆黒に咲いた、大輪の光。
色とりどりの花火が、間を置かずに打ち上がっていく。
人の声が遠のき、ただ光と音が世界を支配する。
僕はその中で、浴衣姿の雨宮さんと並んで立っていた。
「……綺麗、だね」
「うん」
照明が落ちて、花火の明滅が顔を照らす。
普段より少し大人びて見える横顔に、思わず視線を奪われた。
---
「……ねえ、佐藤くん」
ふいに、雨宮さんが口を開いた。
「さっきの、霜降さんと回ってたとき……楽しそうだったね」
「え、あ……うん。まあ、強制同行だったけど」
「ふふっ。そっか」
それ以上、何も言わず。
でもどこか、言葉にならない感情だけが、空気に溶けていた。
「……でも、最後はこうして一緒に見れてよかった」
「……うん、僕も」
花火の音が、また夜空を揺らす。
(あれ、いま僕、ちゃんと“並んでる”のかな)
ほんの少しだけ、彼女との距離が縮まった気がして――
そして、次の瞬間。
「ほら、こっち向いて」
「え?」
雨宮さんが、小さく笑ってスマホを掲げる。
「記念に、一緒に撮ろ?」
浴衣姿の彼女と、打ち上がる光の下で。
一瞬、時が止まったような感覚だった。
カシャ、と音がして。
僕たちは並んで画面を覗き込んだ。
「……うん、いい感じ」
「ほんとだ」
そのとき――
> 「……また、来年も一緒に行けたらいいね」
僕は一瞬、聞き間違いかと思った。
けれど、花火の音に紛れたその声は、確かに僕の耳に届いていた。
「うん……そうだね。また、行こう」
そう返した僕の声が、震えていなければいいけど。
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祭りの最後の花火が打ち上がる。
夜空に咲いて、そして消えていった。
「……そろそろ、帰ろうか」
「うん」
帰り道。
人ごみの中で、何度か手が触れそうになって、でもどちらも言葉にはしなかった。
けれど、不思議とそれだけで。
“来てよかった”と思える、夏の一夜だった。




