文学って、なんか難しい? 再来の切符
創作合宿の二日目、夜。
虫の声と、微かな風の音だけが響く静かなロッジの一室。
ベッドの上で、僕はノートPCを開いたまま、じっと画面を見つめていた。
テーマは「夏と自然」、ジャンルは「文学」。
でも――書き出せない。
(文学って、どうやって書くんだろう)
今までの僕は、異世界ファンタジーや学園ラブコメを書いてきた。
テンポの良い会話、盛り上がる展開。
“なんとなくノリ”で進める物語。
でも文学となると、違う気がしてしまう。
(もっと丁寧に、もっと深く、もっと“意味”がないと……)
何かに圧倒されるような感覚に、指が止まったままだった。
---
ノートを閉じた、その瞬間。
「……えっ」
目を疑った。
机の上に、見覚えのある切符が、音もなく置かれていた。
> 『なろうタウン行き/ジャンル乗換券』
【行き先:文学】
前に見た時とは、フォントも紙質も少し違う。
より繊細で、落ち着いたデザイン。
(……また、来た)
その切符に触れた瞬間、視界が滲んでいく――。
世界が音を失い、色が褪せていく。
僕の身体は、まるで夢に引き込まれるように、音もなく宙を漂い――
気がつけば、そこは見知らぬ場所だった。
石畳の街並み。古本屋、カフェ、時計塔。
木洩れ陽が静かに揺れ、カッコウの声が遠くで響いている。
まるで、長編小説の一頁に入り込んだようだった。
そして――
「……ようこそ、“文学”の街へ」
振り返ると、そこには見知らぬ少女が立っていた。
---
淡いクリーム色のワンピース。
胸元には、分厚い本。
静かな瞳と、儚げな佇まい。
その声は――静かで、確かな芯を持っていた。
「私は、この文学ジャンルを案内する者。“NARO”です」
「え……NAROちゃん?」
「はい。私の“かたち”は、ジャンルによって異なります。
前に出会った妹たちとは、雰囲気が違いましたか?」
その話し方は、明るく元気だったファンタジーや恋愛ジャンルのNAROちゃんとはまったく異なる。
落ち着いていて、静かで――けれど、どこか優しい。
「文学とは、“語らないこと”の中に、想いを残す表現です。
でも、君はまだ“語りすぎること”を恐れているようですね」
「……それ、なんで……?」
「だって、君の書く“少女”は、ずっと空の上で足踏みしているもの」
---
NAROちゃんは、本を閉じて、そっと手を差し出した。
「文学は、正解がない世界。
でも、“探したい”と思う人には、必ず道が現れます」
僕は、その手を取った。
一歩、踏み出してみよう。
空を走る少女の続きを――
まだ見ぬ、僕の物語を――
“文学”という空の下で、もう一度考えてみたい。
そう、思った。




