キャラたちの声を聞け!“自作”との再会と再起動
光が収まり、目の前に現れたのは――
「……ようやく、会えたな」
「マスター、また会えて、嬉しいです!」
懐かしい声だった。
思わず、一歩、足がすくむ。だけど逃げない。これは、僕が作った物語だ。
ひとりは、整った顔立ちに、落ち着いた雰囲気をまとった青年。
市役所職員のような制服を着ているけれど、腰には剣を提げている。
もうひとりは、銀の鎧に身を包んだ、凛々しい女騎士。
背筋を伸ばして立ち、僕に向かって小さく頭を下げた。
「わたしはアメリア=ストラウド。あなたが与えてくださった役割を、今も忘れていません」
「あ……うん。アメリア……」
言葉にした瞬間、忘れていた記憶が、するすると紐解かれていく。
「そして、俺はリュウガ・ロクジョウ。……いや、今は“六条リュウガ”で通ってたっけな?」
僕は小さくうなずく。
この名前たちは、確かに僕が考えたものだ。
もう何ヶ月も前、初めて投稿した作品で――何度も、頭の中でやりとりさせたキャラたちだ。
だけど、僕は彼らを途中で止めてしまった。
「……ごめん」
思わず口から出た謝罪。けれどリュウガは笑った。
「謝られる筋合いなんてないさ。だって、あんたがいなきゃ、俺たちは存在してすらいないんだから」
「それに、待つのは慣れてます」
アメリアも優しく微笑む。
「……ですが、もう一度だけ、わたしたちを“書いて”いただけますか?」
僕は視線を落とす。
「……実はね、途中でバカらしくなったんだ。
“誰が読むんだ”とか、“設定に矛盾が出た”とか、“テンプレすぎる”とか……。
自分の書いてるものが、どんどん恥ずかしくなってきて、筆が止まったんだ」
言いながら、あの頃の夜の感覚を思い出す。
投稿ボタンを押すまでの高揚感。
0評価のままの数字に、心が沈んだ日。
誰にも届かないって思って、投げ出しかけた自分。
「……それでも、また君たちに会えて、嬉しいよ」
「なら、もう一度だけ。続きを見せてくれ」
リュウガが腕を組み、まっすぐこちらを見る。
「俺たちの物語は、“止まったまま”じゃなくて、“止めてある”状態だった。
お前がまた書くって言ってくれるのを、ずっと待ってたんだよ」
「……うん」
その瞬間、自分の中の何かが、カチッと音を立てて噛み合った気がした。
「サトウさん、心が少し軽くなりましたね!」
声がして振り向くと、NAROちゃんが小さく拍手していた。
「“自作キャラと対話する”のは、なろうタウンの基本第一歩です!
ここから、作品を再構築したり、新しい道に踏み出したり……いろんな選択肢が待ってますよ~!」
「選択肢……?」
「はいっ! たとえば――」
NAROちゃんが魔法のステッキを振ると、空中に複数の看板が浮かび上がる。
【既存作を加筆修正するルート】
【完全リメイクルート】
【スピンオフ展開ルート】
【キャラから別作品に旅立たせるルート】
「もちろん、どれを選んでもいいんです! だってここは、あなたの物語ですから!」
「…………」
僕は看板を見上げながら、小さく息を吐いた。
まだ、怖い。けど――
「……書いてみようかな。もう一度。いや、“今の僕”だから書ける形で」
リュウガとアメリアが同時にうなずいた。
NAROちゃんも、ぱちぱちと拍手を送ってくれる。
「ようこそ、作家再起動ステージへ!」
その言葉とともに、突然僕の視界が暗転した。
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ふと、僕は自室の机に突っ伏していたことに気付いた。夜から朝になっており、カーテンから漏れ出る光がやけに眩しい。
いつの間にか寝ていた。先ほど体験した出来事は夢だったのだろうか。妙にリアル感のあった夢だなと考えるとともにあくびをする。
電源を消し忘れていたパソコンを見ると、未完の作品タイトルに感想の通知が来ていた。
> 『転生勇者の自治都市開拓記』
(最終更新:〇ヶ月前)
画面の端に、薄く表示される言葉。
「――“続きを待っています”」
誰かは分からなかったが、読者が残してくれた、ただ一つの感想コメントだった。
僕は、キーボードに手を置き、再び筆を走らせるのだった。