図書館デート? いえ、あくまで自主学習です!
夏休み最初の週。
蝉の鳴き声が響く中、僕は駅前の図書館へと足を運んでいた。
「……図書館に行くの、久しぶりだな」
学生の利用が多いこの時期、館内はひんやりと涼しく、静寂に包まれていた。
本を読む人、自習をする人、パソコンに向かう人――それぞれが“自分の時間”を過ごしている空間。
そして、窓際の席に、彼女はいた。
「……雨宮さん」
「来てくれて、ありがとう」
雨宮さんは小さな声で言った。
制服ではなく、白と水色のシンプルな私服。落ち着いた雰囲気のなかに、柔らかい夏の風を纏っている。
「え、いや、こちらこそ……誘ってくれて、というか、声かけてくれて……」
「……あの時、助けてもらったから。ちゃんと話せる時に、お礼をしたくて」
あの“日直事件”から少し経って。
追試も、期末も越えた“いま”だからこそ、彼女は言葉にできたのかもしれない。
僕らは図書館の隅で、しばらく参考書を開いたり、雑誌を眺めたり。
特別なことはしない。ただ、静かに並んで過ごす時間。
「……勉強しながら、小説のこと、考えてるんでしょ?」
「えっ、え、な、なんで……?」
「顔に書いてある」
「そ、そんなに……!?」
雨宮さんはふふっと笑って、こんなことを言った。
「……でも、ちょっとわかる気がするよ。私も、本を読むとき、“物語の先”を想像しちゃうから」
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昼過ぎ、図書館の中庭ベンチで少しだけ休憩を取る。
「……ねえ、佐藤くんって。昔からそういうの、好きだったの?」
「え?」
「お話を作ることとか、空想するとか……」
「うん、まぁ……たぶん。逃げ場所だったのかもしれないけど」
「……逃げ場所、か」
雨宮さんは小さくつぶやいて、少し遠くを見つめた。
「でも、逃げてもいいよ。ちゃんと戻ってこれるなら」
その言葉は、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。
「ありがとう。……なんか、雨宮さんって、やっぱりすごいな」
「……それ、褒めてる?」
「もちろん、最大級に!」
彼女はほんの少しだけ、視線をそらして笑った。
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午後になり、僕たちは図書館を後にする。
「……今日はありがとね。また、どこかで」
「うん。また」
手を振る彼女の姿が、夏の陽射しの中でやわらかく揺れる。
それだけのことなのに、なぜかずっと、胸の奥が熱かった。
(これって、“物語”じゃない。……けど、忘れられない一日だ)
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帰宅後、ノートを開いてペンを走らせた。
> 『プロジェクト:Re:恋コメ』
第2話:図書館では小声で語れ
(あの瞬間を、物語に残しておきたかった)
たとえば恋かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
けれど、誰かを“書きたくなる”感情は、今、確かにここにある。
夏の空気と、静かな想いを乗せて。
僕のペンは、また一行を綴りはじめた。




