夏、到来! 成績表と名前の呪い
終業式前日。
教室には、どこかピリついた空気が流れていた。
「じゃ、順に返していくぞ~。テストと通知表、セットでな」
水無月先生の声が響く。
そして――
【国語:92点】
「おっ……!」
思わず、声が漏れそうになった。
これは完全に、奇跡。いや、努力の賜物だ。
「よし……この夏は堂々と創作できる……!」
そう思った、次の瞬間。
「ただし、佐藤。名前欄」
「……えっ」
僕の答案の右上に、しっかりとこう書かれていた。
【ミオ、カレン、ユナ】
「………………あああああああああ!!!」
再びやってしまった。
この間はアメリアって書いてしまったのに、今回は3人まとめて!?
どうしてこうも、キャラ名が指を走るのか……。
「うん……まぁ、満点に近いし。今回も“情状酌量”で、正式に“佐藤”ってことで扱うけど……」
水無月先生はため息まじりに言った。
「正直、採点中に“二次元の亡霊”でも取り憑いてるのかと思ったよ」
ごもっともです……。
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テスト返却が終わったあとの休み時間。
僕は、ひっそり机に突っ伏していた。
(名前欄……また、やらかした……。もういっそ、ペンネームで生きていくべきなのか)
名前【勇者・サトウ】
……絶対ダメだ! またみんなに笑われる!
そんなふうに頭を抱えていた時、ふと、横に影が差す。
「……また、やっちゃったの?」
顔を上げると、そこには雨宮さんがいた。
「……え? え、見てた?」
「うん。なんとなく、そんな気がして。あの先生、“佐藤くん”って呼ぶ前、ちょっと間があったし」
「……観察力、高すぎない?」
「ふふ。なんだか、らしいなって思って」
雨宮さんは静かに笑った。
ちょっとだけ、優しい空気が流れる。
「でも……がんばったんだね、テスト」
「え、あ、うん……まあ、そこそこ」
(めちゃくちゃ必死だったとは言えない……)
「……よかったらさ」
雨宮さんが、ふと小さな声で言った。
「……この前のお礼もしたいし。夏休み、どこかで……一緒に、図書館とか行かない?」
――一瞬、時が止まった気がした。
「え?」
「勉強とか……本の話とか。……ちょっと、話してみたいこともあるから」
聞き間違いじゃない。僕は頭が真っ白になった。
でも、頷いた。自然と。
「うん。行こう」
「……うん」
ふわっと、空気がやさしく揺れた。
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放課後。
「さて、いよいよ夏休み突入だな!」
コウダくんが窓の外を見ながら叫ぶ。
「俺は部活だ、補習だ、遊びだ! 夏は短い、全力で走るぞ!」
「……僕も、全力で“書く”ぞ……たぶん」
そんな僕に、教室の後ろから声が飛んだ。
「おっ、佐藤。創作するならさ――“創作合宿”とか、興味ない?」
振り向くと、そこにはクラスでもちょっと目立つ、
イラスト系同人活動をしているという 安宅マコト(あたか・まこと) の姿があった。
「え、創作合宿……?」
「詳しい話はあとで! これ連絡先な。夏、動くなら今でしょ。ま、乗り気になったら声かけて!」
軽やかに手を振って、彼は教室を去っていく。
(創作合宿……? なんか、面白そうな予感がする……)
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帰宅後、僕はまた、ノートを開いた。
> 『この物語は、好きになるまでの物語だ』
(この夏。僕は、何を書くんだろう)
ほんのり汗ばむ指で、ペンを持つ。
夏は始まったばかり。
創作も、恋も、何かが動き出しそうだった。




