新たな風!? 風紀委員の先輩と“空気”の話
「……ふぅ。なんとか、終わった……」
放課後の教室、窓から差し込む陽射しが、ようやく静かな時間を知らせていた。
国語の追試。 赤点同盟――なんてふざけて呼んでいたけど、全員が死に物狂いで挑んだ戦いだった。
しばらく机に突っ伏して、疲れを癒す。
「この平穏、いつまで続くんだろ……」
そうぼやきながら廊下へ出た、その時――
「――走らないこと。廊下は“静穏区域”ですから」
鋭く通る声に振り向くと、そこには制服の袖に風紀委員の腕章をつけた一人の少女――いや、先輩が立っていた。
長い黒髪に凛とした表情。 きっちりとした身なりと落ち着いた物腰。
「えっ……あ、すみません。別に走ってたつもりじゃ……」
「早足は“助走”に該当します。注意対象です」
(助走って……!)
一瞬たじろぐが、先輩はほんの少し表情を緩めた。
「冗談です。……あなた、佐藤ユウくんね」
「え? あ、はい……そうですけど……」
「私は風紀委員長、早乙女 静流。三年生よ」
静流先輩はすっと手帳を開くと、さらりと視線を落とす。
「最近のD組は、赤点組に波があるって聞いたから。少し様子を見に来ただけ」
(様子を見に来ただけで名前まで把握されてる……!?)
「けれど、佐藤くん。あなた、以前より目の色が違う」
「え……目、ですか?」
「授業中の空気。教室での間合い。人の気配。 そういう“空気”に、少しずつ反応できるようになってきてる……そんな顔をしてる」
「……先輩って、すごい観察眼ですね」
「風紀委員は“空気”で判断することが多いのよ。あとは、視点を切り替えて物事を見ること」
その言葉に、僕の中で何かが繋がった。
(“視点の切り替え”……創作と同じだ)
「空気を読むって、つまり誰かの気持ちになって考えることだと思う。 創作でも現実でも、それって同じなんだよな……」
僕がぽつりとそう漏らすと、静流先輩は、わずかに口元をほころばせた。
「面白いことを言うわね。……けれど、悪くない答えよ」
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「それじゃあ、佐藤くん。校内では“穏やか”を保ってね」
静流先輩は軽く一礼し、そのまま背筋を伸ばした姿勢で廊下を歩いていく。
(……なんだろう。怖いけど、ちょっとカッコいい人だったな)
教室に戻る足取りは、さっきより少しだけ軽かった。
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「空気を読むとは、視点を変えること」
誰かの立場に立てたとき、人の気持ちが、ほんの少しだけ分かる気がする。
物語は、今日も日常の中に転がっている。




