僕、なんかやっちゃいましたか? 変わらない僕の学力!
テストの返却日、地獄の鐘が鳴る。
「……終わった……僕の高校生活、第二章完結……」
放課後の教室。僕は、返された答案用紙を握りしめたまま、机に額をつけていた。
【国語:34点】
【赤点】
――短編でヒロインの心情描写を真剣に考えすぎて、テスト前日に“語り口の一人称の違い”を延々と脳内会議していたツケが、今ここに現れた。
もちろんそんなこと、誰にも言えない。
「サトー、もしかして赤点組?」
隣の席のコウダくんが、こっそり答案をのぞきこんで言った。
「……しっ! 小声で頼む……!」
「だよなー、お前途中で授業の現代文のプリントを下敷きにして寝てたもんな……」
(そうだよ……頭の中では、アメリア視点のモノローグが鳴ってたんだ……!)
「では最後に、お知らせです」
教卓の前に立つ水無月先生が、涼やかな声で言い放った。
「赤点を取った者は、追試を行います。追試で基準点に満たなければ――夏休みの課題を“10倍”に増やします」
「ちょ、ちょっと待ってください先生! “10倍”って、倍じゃなくて“ケタ”変わってません!?」
「ええ。私は現実に厳しいので」
ガーンッ!!
僕は頭を抱えた。
赤点=敗北。
追試不合格=地獄。
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昼休み、校舎裏にて。
僕と、同じく赤点をくらった男子数名が集まって、うなだれていた。
「終わった……俺、もう将来、国語の教師にはなれない……」 「そもそも、読解って何? “読めば分かる”ってのが一番わからん!」
「“傍線部の理由を答えなさい”って、そっちが説明してくれよ……!」
みんなの魂が抜けたような顔になっていく。
僕は内心、(いや……でも僕は……書いてたんだ……!)と叫びそうになったが、ぐっとこらえる。
――そう、小説を書いていることは、僕の秘密だ。
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そのとき。
「ちょっと。アンタたち、追試で落ちるつもり?」
するどい声とともに現れたのは、クラス委員長の霜降 明香音だった。
「……委員長?」
霜降さんは腕を組んで、容赦ない視線を向けてきた。
「うちのクラスから、追試不合格者なんて出したくないのよ。学校的にも、成績分布的にもマイナスになるんだから」
(理由がガチ委員長……!)
「だから、あたしが特別に、テスト対策やるわ。参加する人、放課後視聴覚室に集合。強制じゃないけど――来なかったら、“見捨てるから”」
「「「はいッ!!」」」
赤点同盟、即答。
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……あとから、僕は知った。
霜降さんがわざわざ声をかけてきたのは、
雨宮さんが、テスト返却後の僕を見てちょっとだけ困った顔をしていたのを見ていたからだ、と。
「ねえ委員長、もし佐藤くんが困ってたら……少しだけ、手伝ってあげてくれないかな」
以前、日直で困っていた彼女を助けた時。
そのお礼を、彼女なりに返そうとしてくれたんだろうか。
――なんだか、ちょっとだけ胸が熱くなった。




