ジャンル通りへ!出会いとバトルの異世界通り
「ここが、“異世界ファンタジー通り”……?」
塔のような門をくぐった瞬間、僕の視界に広がったのは、想像を軽く超える世界だった。
石畳の大通りには、冒険者風の人たちが行き交い、空には浮遊する城、遠くの山にはドラゴンの影。
街の中にはギルド酒場、魔法学院、スライム専門店、回復アイテムの自販機までが軒を連ねていて……もう情報量が多すぎる。
「この先が、あなたの最初の目的地。ジャンル区画、“異世界ファンタジー通り”よ」
如月エリさんは、通りの入口で立ち止まった。
「ここから先は、案内専門のナビゲーターが引き受けるわ。私の出番は、今日はここまで」
「えっ、ここで?」
「私も作家だから。あなたの創作の答えを“教える”ことはできないわ。
でも、“自分で見つける”道なら、いくらでも後押しするわ」
そう言って、エリさんは小さくウインクした。
優しいけれど、どこか含みのある笑み。彼女の正体は、まだよくわからない。
そして――次の瞬間。
「はーいっ! あなたが新人さんですねっ!?」
キラキラと舞う光粉のような粒子が空から降り、そこからふわりと浮かび上がるように、ひとりの小さな存在が現れた。
「私は“NAROちゃん”! 異世界ファンタジー通り専属のナビゲーターですっ!」
身長は30センチくらい。背中には蝶のような羽。髪は金色で、瞳はクリスタルのように輝いている。
妖精っぽい見た目だけど、声はコールセンターのテンション全開、みたいな明るさだった。
「ようこそ、創作の最前線へ! ジャンル:異世界ファンタジー、通称“異ファン通り”へご案内しまーす!」
「……テンション、高いなぁ」
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「こちらが通りの全体マップですっ!」
NAROちゃんが指を鳴らすと、空中にホログラムが浮かび上がった。通りの構造を立体的に示す、透き通るような地図。
> 【冒険者ギルド】【魔法学園】【スローライフ村】【追放者の街】【転生者塔】
【竜の谷】【チート研究所】【ハーレム神殿】【ざまぁ裁判所】……etc
「ここでは“異世界ファンタジー”をテーマにした作家たちが、
自分の作品世界をリアルに構築して、キャラたちと共に暮らしています!」
「……やっぱり、テーマパークみたいだ」
「テーマパークというより、“物語の戦場”ですね~!」
「戦場?」
NAROちゃんは小さく指を弾き、今度は通り中央の様子が映し出されたスクリーンを展開した。
「出たぞー! 本日のテンプレ決闘戦ーーッ!!」
「勇者VS追放された最強魔導士のバトルだぁあああ!!」
広場に設けられたコロシアム風のステージで、異世界らしいキャラたちが派手な魔法と剣技をぶつけ合っていた。
聖剣を振るう金髪の少年と、闇魔法を操るローブ姿の青年。
その背後では、キャラの“作者”たちが大声で叫び合っている。
『聖剣を抜いた時点で読者の心を掴むんだよ!!』
『いやいや、“追放されたけど最強でした”の爽快感には勝てないって!!』
「……これは、作家同士の“意見のぶつけ合い”……?」
「はいっ! ここでは“テンプレ”と“オリジナリティ”をぶつけるバトルが日常茶飯事!
どっちが上とか正解とかじゃなくて、読者に届けたい物語を“形にする”場所なんです!」
僕は気づく。
目の前の熱狂。ぶつかり合う情熱。叫ぶ声。戦うキャラたち。
これはただのショーじゃない。
ここでは“本気の創作”が、生きている。
「……懐かしいな、この感じ」
忘れかけていた。
僕も、こんな風に物語と向き合っていたはずだった。
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「じゃ、新人のーーーペンネーム"勇者・サトウ"さん!」
「はいっ!?」
なぜ僕のペンネームを知っている!?さすがはナビゲーターってところなのか!?
そんなことを思っていると、NAROちゃんは驚愕の言葉を発した。
「今から、あなたの物語をここに“召喚”してみましょう!」
「そ、そんな簡単に!? 僕の作品、もう止まってるし……」
「でも、心の中に“残ってる”でしょ? 一番最初に書いた、あの主人公やヒロインたち」
思い出す。
深夜にこっそり打ち込んだプロローグ。
設定資料にメモした名前や、街の地図。
転生して、現代知識で街づくりを始める“ちょっと地味だけど優しい勇者”。
それを支える、真面目な女騎士。
「……うん。まだ、いるよ。僕の中に」
「よーし、それじゃあ――物語、召喚ッ!」
NAROちゃんが空に魔法陣を描くと、僕の足元にも光のサークルが現れた。
「出ておいで、僕の物語!」
眩しい光の中から、二つの影が現れる。
どこか懐かしくて、誇らしくて、恥ずかしくて――でも、確かに僕が作ったキャラたちだった。
「――ようやく、会えたな」
「マスター、また会えて、嬉しいです!」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
僕の物語は、まだ、ここにあった。