恋愛編終了! 誰がための物語か?
成瀬ユナ編の短編を書き終えたあと、僕はしばらく画面を見つめていた。
NAROちゃんは、「いいね、よくここまで描けたね」と言ってくれたけれど、その後にこう続けた。
「でもさ、今後もっと上を目指すなら、“誰の視点で書くか”っての、もう一回ちゃんと考えてみて?」
「……誰の視点、か」
恋愛小説では、“ヒロインの内面”から描くことで、まったく違う物語が生まれる。
さっきまで僕が書いていたのは、あくまで「僕=サトウ」の目線から見た物語だった。
でも彼女たち――ミオも、カレンも、ユナも、みんな自分の想いを抱えてたはずだ。
「もし、ユナ視点で書いたら――僕の何気ない一言が、どんなふうに聞こえたんだろう?」
ふと、そんな想像が頭をよぎる。
「“語り手”を変えるだけで、こんなにも見える景色が違うのか……」
独りごちる僕に、NAROちゃんは小さくうなずいた。
「そうだよ。“物語の主人公”って、何も“書き手自身”だけじゃなくていいんだから」
それからNAROちゃんと別れを告げ、“恋愛編”はひとまずここで一区切り。 けれど、得たものは小さくない。
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その夜、僕は再び自室で旧作のデータを開いていた。
『転生勇者の自治都市開拓記』
しばらくぶりに、リュウガやアメリアの設定ファイルを読み返す。
あの頃の僕は、いつも“リュウガ視点”で書いていた。
けど、もし“アメリア視点”で描いたら――?
「騎士として主君に仕えるアメリアの目には、リュウガはどう見えていたんだろう」
「彼女の心の葛藤とか、迷いとか。表には出さない忠誠の奥に、何があったんだろう」
そんなことを考え始めると、どんどん想像が膨らんでいく。
そして、あるひとつのシーンが浮かんだ。
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夜の塔。リュウガがひとりで街の未来を悩む背中を、アメリアは見つめていた。
『……なぜ、私はこの人に仕えると決めたのだろう』
『あの時、あの瞬間。きっと私は、ただ剣を捧げたかっただけじゃない』
「マスター。……あなたは、いつもひとりで悩みすぎです」
リュウガがこちらを振り向く。
その目を、まっすぐに見返した。
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「――うわ、これ……書けるかもしれない」
思わず苦笑が漏れた。
こんな視点、当時の僕じゃ想像もつかなかった。 でも、今なら。恋愛ジャンルで“キャラの内面”を追いかけてきた今なら。
“恋愛モノ”を一通り書き終えたことで見えてきた、“人を描く”ということ。
感情の揺れを拾うこと。
言葉にならない想いを、行間に滲ませること。
そして、語り手の視点から見える“景色”の違いを意識すること。
それらはすべて、ファンタジーでもラブコメでも、変わらず物語の“深さ”を決める要素になる。
新たな知識と発見を得た僕は、次なる物語へ向けてキーボードに手を添えた。




