(小説パート)Re:恋コメ 短編01:静寂の本棚、その手がふれたら
■登場人物(短編内)
僕(主人公):図書室でよく本を読む高校生。恋愛経験はゼロ。
柊ミオ:図書委員。寡黙で感情表現は控えめ。だけど、本を通して語る何かがある女の子。
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■本文
図書室には、音がない。
誰かがページをめくるたびに鳴る紙の音さえ、ここでは耳に優しい。
僕は、放課後の図書室の窓際席で、文庫本を読んでいた。
別に、難しい本が好きなわけじゃない。
ただ、静かなこの場所と、“ここにいる自分”が好きなだけだ。
「……それ、好きな作家?」
ふいに聞こえた声に、驚いて顔を上げる。
そこに立っていたのは、柊ミオさん――図書委員で、僕と同学年。
長い黒髪を横で結んでいて、制服のリボンはいつも少し緩んでいる。
「あ……うん。最近よく読んでる」
「私も、それ、読んだことある」
彼女はそう言って、小さく微笑んだ。
けれど、すぐにまた無表情に戻る。
どこかのページの一文みたいに、感情の“起伏”が短い人だ。
僕たちは、言葉少なに同じテーブルに座った。
話題があるわけでもない。
ただ、お互いに本を読みながら、ときどきページをめくる音だけが響く。
静かな時間だった。
でも、僕はその時間が――嫌いじゃなかった。
「……あのね」
しばらくして、柊さんが口を開いた。
彼女は、本のページの途中で指を止めたまま、僕を見ずに言った。
「私は……物語が終わる時が、一番好きなの」
「……どうして?」
「だって……“好き”って気持ちが、いちばん素直に現れるのが、そこだから」
僕は、彼女の言葉の意味を考えた。
その間にも、図書室には小さな沈黙が流れる。
でも、それは苦しくなかった。
柊さんといる沈黙は、“会話のない会話”みたいだった。
その日、僕たちは別々の本を読んでいた。
けれど、ページを閉じたタイミングが同時だった。
バタン、と小さく重なる音。
「……ねえ」
柊さんが、僕の方へそっと手を伸ばした。
その手は、僕の閉じた本の上に触れた。
「……また、一緒に読んでもいい?」
僕はうなずいた。
うまく返事ができなかったのは、彼女の指先が、少しだけ震えていたからかもしれない。
-終わり-
■あとがき(勇者・サトウ)
読んでいただきありがとうございました。
初めて恋愛モノを書くので不安ですが、読者の皆さんに楽しんでもらえたなら幸いです。
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書き終えたあと、僕はしばらくノートの画面を見つめていた。
“恋”というほど強い感情じゃない。
でも、“何かが始まる予感”だけは、ちゃんと描けた気がする。
柊ミオというキャラが、初めて“物語の中で呼吸した”ような気がした。




