短い!?長い!? 悩める男子のアレの長さはどっちがお好き?
「よし……まずはプロローグからだな」
LOVE×EXPOから帰ったその夜。
僕はノートパソコンの前に座り、“Re:恋コメ”の新規ファイルを開いた。
登場人物の名前はもう決まっている。
舞台は高校、ジャンルはラブコメ、主人公は平凡男子……。
「よし……じゃあ、とりあえず10万字くらいの構成で――」
\ちょっと待ったァァ!/
突然、モニターの中からNAROちゃんの顔が飛び出してきた。
「うわっ!? 出た!? なんで!? えっ、パソコン越し!?!?」
「心のモニター経由ってやつ☆ まぁ細かいことは気にしないで!」
にっこにこで腕組みするNAROちゃんは、ピンクの羽をぱたぱたさせながら僕の肩に着地する。
「てかサトウ、いきなり10万字とか言ってんじゃないわよ! 恋愛初心者がそんな長さに手出したら、また未完の墓場に埋まるからね!」
「いや、でも……僕、元々長編派で……」
「長編はね、“書き慣れてる人”と“最後まで妄想し尽くした人”がやるもんなのよ。 恋愛初心者で“続けられるか不安なジャンル”の時こそ、“短編”で勝負なの♡」
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「……でも、短編って正直、物足りない気がして……。 ほら、感情が乗ってきた頃に終わっちゃうし、キャラも深掘りできないというか……」
「んもう!これだからチェリーは! 短編はね、“一撃必殺の恋”なの!」
NAROちゃんは空中にハート型のエフェクトを描きながら言う。
「たった3000字で、“えっこれ恋だったの!?”って心を撃ち抜く。 逆に言えば、“短さ”は“濃さ”の証明なのよ!」
> ・電車で見かけた知らない子との3駅だけの恋
・卒業式の日、最後に渡された手紙の真意
・バイト先の先輩が、実は恋人になってた未来の人だった――
「……確かに。短くても、印象に残る話ってあるよね」
「でしょ? それに、“完結できる”のも短編の最大のメリット!」
NAROちゃんはバチンと指を鳴らすと、空中に「未完の墓場」みたいな表示が出てきた。
「ここが“途中で止まった恋”の成れの果てよ」
「うわ……多いな……」
「でも! 逆に短編なら、“あの日、君に出会っただけで”って終われる!
読者の想像力に託す余白が、また良いのよ~~~♡」
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「まずは、キャラひとりに焦点を当てた“短編”から始めよ!」
NAROちゃんは、指でくるくる回しながら三人のヒロインのイラストを空に浮かべた。
> 柊ミオ
芹沢カレン
成瀬ユナ
「誰を最初に書いてもOK! “Re:恋コメ”ってプロジェクトが続く限り、この短編がシリーズ第一話になるの!」
「なるほど……“最初の一歩”としての短編、か……」
僕は少し考えてから、うなずいた。
「じゃあ――まずは“あの子”で書いてみようかな」
(“本を閉じる時、彼女の手がそっと重なった”――)
ふいに浮かんだワンシーンを、メモに走らせる。
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「というわけで、男子作家くんたち~!」
NAROちゃんは小さなスピーカーから音声を飛ばすようにして、どこかの作家たちに呼びかけた。
「恋愛小説の“アレ”の長さ、気にしすぎぃっ!
短いからこそ届くラブがあるって、そろそろ気づこうな~♡」
「……“アレ”って、恋の話だよね?」
「そうそう、“恋の文字数”の話ね♪ 何だと思ったのぉ? チェ……いや、サトウくん♡」
NAROちゃんは満足げにくすくす笑い、僕は少しだけ顔を赤くした。
でも、どこか楽しい。
「短編か……よし、書いてみよう」
新たなページを開く音が、今夜も静かに響いた。




