恋愛ジャンル通りを歩け。“好き”のかたちは無限大
「――とりあえず、もっと“恋愛小説”ってやつを知ってみようと思う」
僕はそう言って、恋愛ジャンル通りの通り道を歩いていた。
3人のヒロインに名前を与え、仮タイトルも決めた。
でも、まだ物語を書き出すには、自分の中で“何か”が足りない気がしていた。
NAROちゃんは、そんな僕の決意を聞くなり、にやりと笑った。
「いいじゃ〜ん!ようやく“チェリー”卒業して、本気モードって感じじゃん?」
「……いや、その呼び方はもうやめたって言ってたよね?」
「ごめんごめん♡ サトウね、サ・ト・ウ♪」
ピンクの羽をぱたぱたさせながら、彼女はリズムよく僕の前を飛ぶ。
「ってことで、今日は“恋愛ジャンルの先輩たち”が書いた、実際の創作をいっぱい見てもらいま〜す!」
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恋愛ジャンル展示区画:LOVE×EXPO
「ここ、まるで……文化祭みたいだな」
恋愛ジャンル通りの中でも、“展示広場”と呼ばれるエリアに足を踏み入れた瞬間、僕はそう呟いた。
そこにはステージやブース、カフェ風の朗読スペースに、ポスターだらけの壁。
作家たちが自分の小説を様々な形でプレゼンしている、“創作の見本市”のような光景だった。
「ここは、作家たちが“恋の形”を表現する場所! ラブレターの劇とか、告白の瞬間だけ抜き出したVR演出とか、マジいろいろあるよ!」
「……恋愛、奥が深いんだな」
NAROちゃんに導かれながら、僕はいくつかの作品を巡ることにした。
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Case 1:余命恋愛もの 〜切なさと強さの混在〜
まず僕が立ち止まったのは、小さなステージで朗読されていたモノローグ。
少女の声で語られるのは、「余命3ヶ月の私が、同級生の君に恋をした物語」。
> 「あと何日、君に“おはよう”って言えるんだろう。
たぶん、私の人生の最後の言葉も、“君の名前”だと思うんだ」
演者の静かな声に、観客席の誰もが息を飲んでいた。
たった数分の朗読なのに、胸がギュッと掴まれるような感覚が残る。
「……すごい。こんなに感情を詰め込めるんだ」
隣で聞いていたNAROちゃんがぽつり。
「この作家、もう5年以上“別れのある恋”しか書いてないんだって。 “恋の輝き”を、“消える命”で際立たせるプロ。読者泣かせNo.1よ」
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Case 2:テンプレラブコメ職人 〜笑ってときめかせる技術〜
次に立ち寄ったのは、賑やかな演出が飛び交うステージ。
「うっわ!またパンツ見せやがって!」 「べ、別にあんたのために見せたわけじゃないし!!」
爆笑と拍手。
王道の“ツンデレ×鈍感男子”のやりとりに、観客のカップルたちまでキュンキュンしている。
「うちのヒロイン、ツン比率70%、デレは年に1回。それでも読者が毎週待ってくれてんの!」
舞台裏にいた作家の女性は、ドヤ顔で語った。
「テンプレはダメだってよく言われるけど、テンプレで“心を動かす技術”を磨いたら、最強の武器になるんだから」
「……格好いいな」
僕は思わずそう呟いていた。
なんとなく“テンプレ=ダメ”って思っていた自分が、恥ずかしくなった。
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Case 3:中学生男子の一点突破ラブ
最後に、ひときわ小さなブースに足を止める。
机の上には、たった一冊のノート。
中をめくると、“告白までの3日間”の心の葛藤が、びっしりと手書きで綴られていた。
登場人物は、男の子と女の子、たった二人だけ。
でもそこには、何ページにもわたって、心の中の“震え”が描かれていた。
> 『好きって、言えない。でも伝えたい。言えない。でも、言いたい。』
言葉にならない感情が、ページの中で何度も反復されていた。
「……伝えたいけど、伝えられない」
思わず声に出してしまったその感想が、自分の中に妙に刺さった。
「書き方も、テーマも、全然違う。
でも、どの作品にもちゃんと“恋”がある……」
“好き”って、ひとつじゃないんだ。
そう気づいたとき、少しだけ心が軽くなった気がした。




