表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/57

ようこそ! 物語の街へ!

「……ダメだ、全然書けない」


思わず口に出して、ため息をついた。

机の上には溶けかけのアイスと、止まったままの未完成の冒頭文。

モニターに映っているのは、投稿ページじゃなくて、「小説家になろう」のランキング。


“異世界転生 × 最強チート × 魔王学校”

“悪役令嬢のざまぁ復讐劇”

“令和知識でスローライフ無双!”


すごいな、みんな……どうやったらそんなに読まれるんだろう。

アイデアも展開も、僕には到底届かない場所に見える。


高校2年の春。

僕はひっそりと「なろう」で小説を書いている。

デビュー作は少しだけ読まれて、感想も数件もらえた。

でも、2作目、3作目と続けていくうちに、閲覧数も感想もどんどん減っていった。


今じゃ、投稿ボタンを押すのすら怖い。


面白いって、何だろう。

誰かの心に届く物語って、どうやって書けばいいんだろう――。


そんなことを考えていたときだった。

PCの通知音が鳴って、画面の端にメッセージが表示された。


> 《あなたの物語には“街”が必要です。

創作に迷った時は、物語の街へ――

【なろうタウン】へお越しください》

 ――NARO TOWN 管理局より




えっ……?


よくわからない。でも、添付された画像をクリックした瞬間、目が離せなくなった。

空に浮かぶ図書館、万年筆型の塔、ペンの雨が降る街。

ファンタジーとも夢とも、でも不思議と現実味のある世界が、画面の奥に広がっていた。


ふと視線を下げると、机の上に見覚えのない切符があった。


「……NARO-TOWN行き?」


そう疑問を口にした途端、視界が暗転した。



ーー


「ここは……どこ……?」


気がついたら、僕は見知らぬ駅に立っていた。

空気が少し甘くて、風がインクの匂いを運んでくる。

改札の向こうには、巨大なペン型のモニュメントと、不思議な案内板。


> 【ジャンル区画案内】

・ファンタジー通り

・恋愛商店街

・ミステリー裏路地

・現代ドラマ坂

・二次創作横丁

・完結作品墓地

……and more!



ジャンル……通り?

これ、どういうこと……小説の中に迷い込んだってこと?


「ようこそ、“なろうタウン”へ。創作に行き詰まった人?」


後ろから声がして振り向くと、ゴスロリ服の少女が立っていた。

まるで小説からそのまま出てきたみたいな格好で、手には羽ペン、背中には小さなブックバッグ。


「は、はい……あの、誰ですか?」


「私は『如月エリ』。“悪役令嬢系”の住民よ。あなたのジャンルは?」


ジャンル……そんなの、決まってない。

転生系とかスローライフ系とか、書いてみたけど、どれも途中で止まってるし。


「……まだ決めてない、というか、いろいろ迷ってて……」


「ふふっ、じゃあ、“迷い人”ね。ぴったりじゃない、この街に。

ここは、“物語を書く人たち”が集う場所。

ジャンルが通りになっていて、作家たちが、自分の作品と一緒に暮らしているの」


「作品と……暮らす?」


「そう。キャラクターと話したり、世界設定が具現化したり。

この街では、物語が“リアル”になるの。

あなたの書きたいもの、そのすべてと、きっと出会えるわ」


よくわからない。でも――

この街なら、何か変われるかもしれない。


「……わかりました。少し……歩いてみます」


声がほんの少し震えていたけど、胸の奥に、小さな灯がともっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ