第6話 寝坊
目を開けた瞬間、全身がビクンと跳ねた。
窓の外は明るく、時計を見ると──午前十一時。
「は?」
その一言で脳が覚醒する。
俺は飛び起き、スマホのアラーム設定を確認した。
……オフ。なんで!?
いや、理由なんてどうでもいい!
今はとにかく、急がないと!
歯磨きもそこそこにスーツに袖を通し、
ネクタイをくるくると雑に巻きつけて、靴を突っかけるように玄関を飛び出した。
通勤路を全力で駆け抜けていたそのとき、俺は何かにぶつかって──
いや、誰かにぶつかって、地面に尻もちをついた。
「いてて……す、すみません!」
顔を上げると、そこにいたのは……野獣先輩だった。
「大丈夫か?」
先輩の大きな手が、俺に向かって差し伸べられる。
「だ、大丈夫です!」
慌てて立ち上がろうとすると、先輩の眉がピクリと動いた。
「小鹿……お前も寝坊か?」
「えっ? はい、アラーム切ってたみたいで……」
「奇遇だな。俺もだ」
「えっ、先輩も!?」
「昨夜飲んだせいか、完全に寝過ごした。今ダッシュで向かってるところだ」
「マジですか……」
変なところで親近感を覚える。
「のんびりしている暇はない、一緒に行くぞ」
そう言うと、野獣先輩は突然俺を抱きかかえ──
「──えっ!?」
お姫様だっこ。
道行く人々の視線が一斉にこちらに集中する。
恥ずかしさと驚きで顔が真っ赤になる。
「ま、待ってください! 自分で歩けますから!」
「いいから、俺にまかせろ!」
次の瞬間、野獣先輩は──走っていた。
というか、風景が後ろにぶっ飛んでいくスピードで。
「は、速っ!? 」
車の速度を上回るスピードに目が回り、思考が追いつかず、ついに限界がきた。
「やめてくれぇぇぇえええ!!」
──その叫びと共に、俺は目を覚ました。
天井。
静かな部屋。
スマホの画面には、午前六時の表示。
「夢……か」
思わずため息が漏れた。
でも、妙にリアルだったな……。
胸に手を当てると、まだ少しだけ心臓がドクドク動いている。
俺は深く深呼吸をして、身支度を済ませ会社に向かうことにした。