第4話 歓迎会
歓迎会の場所は、会社から徒歩15分ほどのところにある居酒屋だった。
小洒落た外観とは裏腹に、中は古き良き昭和の香り漂う大衆居酒屋。
提灯の光が温かく、にぎやかな話し声が飛び交っている。
「小鹿!お疲れ!」
俺と同じ新入社員の男、江崎が声をかけてきた。
江崎は人懐っこい笑顔の持ち主で、面接の時に出会って間もないながらも
気兼ねなく話せる相手だった。
そのまま流れる様に江崎と隣同士の席に座り、
緊張もほどけて雑談に花を咲かせていた。
「江崎の部署はどんな感じなんだ?」
「男ばっかで正直、テンション上がらね~って感じ。小鹿はあれか?
綺麗でミステリアスな先輩の美人社員に教えてもらったとかなら、
マジで部署変わってくれ~」
「俺のところも男性社員が多いから、江崎の部署と大差ないと思う」
「マジで?あ~あ、社内恋愛、期待してたのになぁ」
そんなくだらない話で笑い合っていると、
上司が両手にビールジョッキを持ってこちらへやってきた。
「お疲れ~! 今日は新入社員の歓迎だ、遠慮せず飲んでくれよ!」
そう言って、俺と江崎の前にジョッキをドン、と置く。
「す、すみません。僕、お酒ダメで……」
思わず口に出た言葉。
正直に言うしかなかった。
昔から体質的にアルコールに弱くて、少し飲んだだけで頭がぐるぐるしてしまう。
「えー? そんなこと言わずにさ!
社会人なんだから! ほら飲んで!」
冗談めかした口調だったが、
その笑顔にはどこか強制の色が混じっていた。
俺と上司のやりとりを見ていた周りの空気もピリッと緊張する。
……どうしよう。
ジョッキを前に、俺は固まってしまった。
そのときだった。
「課長、その辺にしといてください」
聞き慣れた、けれどもどこか低くて落ち着いた声が割り込んできた。
見ると、野獣先輩がすっと立ち上がり、
俺の目の前に置かれたジョッキを手に取った。
そして一言も発さず、それを一気に飲み干した。
「ぷはぁ……ふう」
その飲みっぷりに、課長が思わず笑った。
「おっ、いいねえ! 野獣くん、さすがだよ!」
機嫌を取り戻した課長は上機嫌で次のテーブルへと移動していった。
俺は何も言えずに、ただその後ろ姿を見送る。
「……ありがとうございます」
側に立っていた野獣先輩に向かって頭を下げた。
「別に。無理に飲むもんじゃない」
それだけ言って、野獣先輩は自分の席に戻っていった。
その背中を見つめながら、俺は少しだけ先輩への印象が変わった気がした。
筋肉とバナナだけじゃない、
ちゃんと見ていてくれる人なんだ。
少しだけ、心が温かくなった。