第2話 昼食
そうこうしているうちに、時刻は12時になっていた。
「小鹿!飯に行くぞ」
野獣先輩に声をかけられ、俺は慌てて頷いた。
こういうとき、断る選択肢はない。
少なくとも俺には。
社員食堂に向かうと、昼時の活気に包まれていた。
メニューを一通り見て、俺はカツカレーを選択。
がっつり食べて、午後も頑張らないとな。
一方の野獣先輩は──
バナナだった。
カレーを受け取った俺が席につくと、
先輩はポケットからスッと一本のバナナを取り出し、無言で皮をむき始める。
「……え?」
思わず声が漏れる。
野獣先輩はバナナを一口、二口と食べ進めていく。
堂々と、迷いなく、それが当然であるかのように。
「野獣先輩、それ……昼飯ですか?」
「ああ」
即答だった。
え、嘘だろ。バナナ一本?
社員食堂のメニューを完全に無視して、己の道を行くタイプ?
ふと周囲を見回すと、他の社員たちは特に驚く様子もなく、
普通に昼食を取っている。
むしろ「ああ、いつものね」とでも言いたげな目で先輩を見ていた。
……なんか、俺の常識が揺らいでいく気がする。
カツカレーを一口食べながら、俺は改めて思った。
──俺の社会人生活、本当に大丈夫か?