第15話 製造工場にて
翌朝、俺たちは都内から電車とタクシーを乗り継ぎ、
郊外にある食品加工工場にやってきた。
空気は澄んでいて、都会とは違ってどこかのんびりした雰囲気が漂っている。
構内に入ると、白衣と帽子を身に着けた恰幅のいい男性が俺たちを出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。私、この工場の工場長をしております、
谷田と申します」
「野獣です。本日はよろしくお願いします」
野獣先輩が谷田さんと固い握手を交わす。
それを皮切りに、俺たちもそれぞれ名乗っていき、工場内の見学が始まった。
案内されたのは、金属の機械がずらりと並ぶ製造ライン。
見慣れない器具や回転するローラー、巨大なミキサーが稼働音を立てている。
異物混入防止のため、全員が帽子とマスクを着け、白衣に着替えた。
「では、まず原料の混合工程からご説明します」
谷田工場長が手に持っていた資料をめくる。
プロテインパウダー、大豆パフ、ナッツ、ドライフルーツ、
そして結合用のシロップやオイル。
どれも聞いたことのある素材ではあるが、
それを一メートルのバーにするという発想が狂っている、と再確認する。
「こちらの巨大ミキサーで、すべての材料を混ぜ合わせます。
その後、特殊な押出し機を通して、一定の厚みと幅でバー状に整形されるのですが……
今回は長さが長さなので、専用の金型を作らせていただきました」
「マジで……そこまでしたんですか」
と思わずつぶやく。
「まあ、無茶な依頼でしたけど、こういうの、ちょっと燃える性格でしてね。
工場としても新しい挑戦です」
工場長の目がキラリと光った。
この人も、どこか野獣先輩と通じるものがある気がする。
製造ラインの最後では、長さを測りながら、
1メートルのバーが丁寧に包装されていく工程があった。
まるでホースのように長いプロテインバーが、
くるくるとロール状に巻かれて個包装されていく光景は、正直、シュールだった。
「ちなみに、冷蔵保存を推奨しております。
一本全部食べ切れる人はなかなか居ないでしょうから」
「やっぱ、1メートルは長すぎなんじゃ……」
と朝日先輩がボヤく。
野獣先輩はただ腕を組み、黙って話を聞いていた。
「……味はどうなんですか?」
上野先輩が訊ねると、工場長が笑顔でサンプルを手渡してくれた。
「ぜひ、皆さんでお試しを」
俺たちはおそるおそる、それぞれ短くカットされた試食用のバーを手に取った。
見た目は意外と普通。
ちょっと厚めのシリアルバーって感じだ。
一口食べてみると――
「……おお。うまっ」
正直、予想していたよりずっと美味しかった。
甘すぎず、ナッツの香ばしさとドライフルーツの自然な甘さがちょうどよくて、
後味も悪くない。
口に入れた瞬間、朝日先輩が
「え、これ普通に美味しい」と目を丸くする。
太田先輩は
「ふむふむ……カロリーは……思ったより、高いなぁ……」
と真面目に栄養成分表示をチェックしていた。
一通りの見学と試食を終えた俺たちは、
工場の応接室のような一室に通され、
そこでもう一度プロテインバーの実物をテーブルに並べた。
1メートルのバーは、改めて見るとやっぱりとんでもないサイズだった。
存在感は抜群だが、どう考えても日常使いには向いていない。
「……あの、野獣先輩」
俺は思い切って切り出した。
「これ、配送途中で折れたりしませんかね。
1メートルって、段ボールに入れても絶妙に中途半端なサイズですし」
野獣先輩は顎に手を当ててうなった。
「確かに……輸送コストや破損リスクを考えると、
少し現実的じゃないかもしれんな」
すると、上野先輩がため息交じりに言った。
「それにさ、男性ならまだしも、
女性がこれを持ち歩くのは無理があるよ。
バッグに入らないどころか、電車で持ってたら不審者扱いだ」
「たしかに……」
と太田先輩も続く。
「長さだけじゃなくてカロリーも問題です。
試作品一本で1000キロカロリーって……一食分を軽く超えてます」
その場が一瞬、静まりかえる。
誰もが黙ってプロテインバーを見つめていた。
「やっぱり……インパクトはあるけど、
もっとコンパクトな方がいいと思います」
俺はそう言いながら、ふと頭の中にある光景がよみがえった。
仕事の昼休み、野獣先輩がいつも食べていた――バナナ。
「……あ」
思わず声が出た。
「どうした、小鹿」
「いえ、あの。野獣先輩いつもバナナを持ってましたよね。
あの形状って、けっこう良くないですか?
片手で持てて、インパクトもあるし。
何より持ち運びしやすいし、映える見た目にもなりそうで」
「……なるほどな」
野獣先輩が腕を組んで頷く。
「バナナ型……確かに。一般的なバータイプじゃなく、
曲線のあるスティック型にして、厚みを持たせる。
パッケージも工夫すれば、ユニークさはそのままに、現実的なサイズに収まるな」
「それ、すごく良いアイディアだと思います」
と上野先輩。
「加工もしやすそうだし、何より食べやすいのがいいと思う」
と太田先輩も賛同する。
「インスタ映え狙いっていうテーマにも合ってますよね」
と俺。
朝日先輩が
「明るい兆しが見えてきたって感じだね」
とほっとした表情を浮かべた。
意見がまとまり、空気が一気に前向きになる。
野獣先輩は立ち上がり、工場長に向き直った。
「谷田さん。すみませんが、金型を一から見直す必要がありそうです。
バナナ型での製造って、可能ですか?」
工場長は少し驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「面白いじゃないですか。挑戦しましょう」
そう言って、工場長は再び図面の入ったバインダーを開いた。
前代未聞の1メートルのプロテインバーは、まさかの“バナナ型”に進化しようとしていた。




