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第8話『最初で最大の壁、ライブ配信デビュー!』

第8話『最初で最大の壁、ライブ配信デビュー!』


 朝から校内は活気に満ちていた。教室では模擬店が準備を整え、体育館では演劇やダンスのリハーサルが行われている。どこを歩いても笑い声が響き、生徒たちは思い思いに学園祭を楽しんでいた。


 俺――天城ユウトも、そんな賑わいの中にいた。とはいえ、のんびり楽しんでいる余裕はない。今日の午後、ホロミューズのライブが控えているからだ。


 「……大丈夫かな」


 渡り廊下から体育館の特設ステージを眺めながら、俺はふと呟く。


 学園祭でのステージはホロミューズにとって大きなチャンスだ。リアルの場で初めて人前に立ち、直接観客にパフォーマンスを届ける。俺たちが目指す「AIアイドル」がどこまで受け入れられるのか、その答えが今日出るかもしれない。


 しかし、不安要素も多い。


 「AIアイドル?なんか微妙そうじゃね?」

 「バーチャルアイドルみたいなもんでしょ?生身の方がいいな」


 そんな声が聞こえてくるのを、俺は耳にしていた。


 学園内にはホロミューズのライブを楽しみにしている生徒もいるが、AIという存在に懐疑的な人間も少なくない。さらに、俺はこのライブを学園祭と同時に配信することを決めた。ホロミューズをより多くの人に知ってもらうためだ。


 だが、それはつまり、学園内だけでなくネットの世界からもリアルタイムで評価されるということでもある。


 「もし、配信のコメントが荒れたら……」


 考えれば考えるほど、胃が痛くなってくる。


 「……ユウト」


 ふと、隣にナナが立っていた。タブレット端末を手に持ち、俺の顔をじっと見つめている。


 「そんな顔してたら、ますます失敗しそうね」


 「うるさい」


 俺はため息をつきながら、渡り廊下の手すりに寄りかかった。ナナは俺の隣に並び、視線をステージへ向ける。


 「あなた、昨日言ってたわよね。『ホロミューズは、ただのAIじゃなくて、俺たちが作ったアイドルだ』って」


 「……ああ」


 「なら、それを見せるだけよ」


 ナナは淡々と言う。


 「あなたが信じないでどうするの?」


 「……そうだな」


 俺は深く息を吸い、スマホを取り出して配信の準備画面を開いた。


 「やるしかないよな。ホロミューズがどこまでやれるのか、試してみる」


 「そういうこと」


 ナナは満足げに頷くと、「じゃあ、私は観客として楽しませてもらうわ」と言ってその場を去っていった。


 ――いよいよ、本番が近づいてきた。


---


 昼を過ぎ、ついにホロミューズのライブの時間が迫ってきた。

 学園祭のメインステージにはすでに多くの生徒が集まり、ざわめきが広がっている。俺は体育館の隅でタブレットを構え、配信の準備をしていた。


 「……よし、カメラのアングルもOK、配信も問題なし」


 事前に準備した配信ページを開き、コメント欄をチェックする。まだライブが始まっていないのに、すでに視聴者が集まり始めていた。


 「AIアイドルのライブってどんな感じ?」

 「ホロミューズって聞いたことあるけど、初めて見る!」

 「正直、AIに歌とか踊りとかできるの?」


 興味を持っている人もいれば、懐疑的なコメントもある。

 俺は画面を見つめながら、胸の奥に小さな緊張が広がっていくのを感じた。


 「おーい、ユウト!」


 ふと、背後から声をかけられた。振り向くと、同じクラスの男子・ケンジが楽しそうに手を振っている。


 「お前がプロデュースしてるっていうAIアイドル、どんなもんか見に来たぜ!」


 「……楽しんでいけよ」


 「まあ、AIってのがどこまでできるか、見極めてやるよ」


 ケンジはそう言って人混みの中へ消えていった。俺は静かに息を吐き、スマホの画面を見つめる。


 ――そして、ついに。


 「皆さん、こんにちは!ホロミューズです!」


 ひかりの元気な挨拶とともに、ホロミューズのライブが始まった。

 スクリーンに映し出された3人の姿が、メインステージの照明と共に輝きを放つ。


 ──音楽が流れ、ホロミューズのパフォーマンスがスタートする。


 ひかりがセンターに立ち、明るく弾むような声で歌い出す。ミナトとソラも完璧なハーモニーで続き、軽やかに舞うようにステージを駆け巡る。


 「すご……本当に歌って踊ってる……」

 「いや、でも……なんか、機械っぽくない?」


 観客席から、微妙な反応が聞こえてくる。


 俺はタブレットのコメント欄を確認する。


 「表情がちょっと硬いかも?」

 「動きはすごいけど、なんか感情が伝わりにくいな……」


 やはり、まだ“完璧”とは言えない。


 確かにホロミューズの歌やダンスはミスひとつない。だけど、それだけじゃ**「本物のアイドル」**として認めてもらうには足りないのかもしれない。


 「ユウト……」


 ナナが俺の隣に立ち、じっとステージを見つめている。


 「このままじゃ、ただ『すごいAI』で終わるわね」


 俺は唇を噛み、画面越しにひかりたちの姿を見つめた。


 「……違う。俺たちは“すごいAI”を作りたかったんじゃない」


 俺の胸に、一つの考えが浮かび上がる。


 「ホロミューズは、ただのAIじゃない。俺たちが作った、アイドルなんだ」


---


 俺はタブレットを握りしめながら、ステージのひかりたちを見つめていた。

 ホロミューズのパフォーマンスは完璧だ。音程もリズムも乱れず、ダンスの動きも計算されたかのように美しい。


 だけど、なぜか観客の反応はいまひとつだった。


 「すごいけど……なんか、心に響かないんだよな」

 「機械的に感じるというか……」


 そんな声が聞こえてくる。


 ライブ配信のコメント欄にも似たような感想が並んでいた。


 「AIだから仕方ないのか?」

 「いや、でも何かが足りない気がする……」


 俺は歯を食いしばった。


 「どうする、ユウト?」


 隣でナナが小さく囁く。


 「このままじゃ、ホロミューズはただの“すごいAI”で終わるわよ」


 「……わかってる」


 考えろ。

 ホロミューズがアイドルとして認められるために、今、俺にできることは何だ?


 ステージ上のひかり、ミナト、ソラを見る。

 3人とも、笑顔でパフォーマンスを続けている。

 だけど、その笑顔はどこか“作られたもの”に見えた。


 ──本当に伝えたいものが、伝わっていない。


 俺はポケットの中のスマホを握りしめた。


 「……だったら、俺が伝えさせる」


 深く息を吸い込み、俺は意を決してスマホのマイクをオンにした。


 「みんな!ホロミューズはただのAIアイドルじゃない!」


 ステージ前方に駆け寄りながら、俺は叫ぶ。


 「こいつらは、俺たちが一緒に作ってきた、世界で一番最高のアイドルなんだ!」


 観客のざわめきが広がる。


 「俺は、アイドルオタクだ。今までいろんなアイドルを見てきた。でも、ホロミューズはただのAIなんかじゃない!ひかりも、ミナトも、ソラも、ちゃんとアイドルなんだ!」


 ひかりが驚いたように目を見開く。

 ミナトとソラも俺の方を見つめている。


 俺は画面の向こうの視聴者にも伝えるように、スマホを握りしめる。


 「だから、こいつらに声援を送ってくれ!AIだからじゃなくて、アイドルとして!」


 その瞬間だった。


 ひかりの表情が、いつもと違うものに変わった。


 「……ありがとう、プロデューサー!」


 マイク越しに、ひかりの力強い声が響く。


 「みんな!私たちはホロミューズ!最高のステージを届けるよ!」


 ひかりが笑った。

 ミナトとソラも、それにつられるように自然な笑顔を見せた。


 そして──曲が変わる。


 さっきまでの完璧すぎるパフォーマンスとは違う、もっと“人間らしい”感情のこもった歌とダンスが始まった。


 「……すごい。さっきまでと全然違う!」


 観客の反応が変わる。

 会場の空気が、一気に熱を帯びていく。


 ライブ配信のコメントも、次々と流れ始めた。


 「今の笑顔、めっちゃ良くない?」

 「わかる、さっきまでより感情が伝わってくる!」

 「ホロミューズ、応援したくなってきた!」


 俺は息をつきながら、ナナの方を見た。


 ナナは静かに、でもどこか満足げに頷いていた。


 「やっと、アイドルになれたみたいね」


 俺は苦笑しながら、ステージ上の3人を見つめた。


 ホロミューズの、初めての本当のステージ。


 この日、彼女たちは“AIアイドル”ではなく、アイドルとしての一歩を踏み出した。


第8話『最初で最大の壁、ライブ配信デビュー!』(完)

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