第25話『コミュ症オタクの俺が見つけた「絆」』
第25話『コミュ症オタクの俺が見つけた「絆」』
全国大会本選――それは、すべてのバーチャルアイドルが夢見る舞台。
そして今、ホロミューズはその夢の中心に立っていた。
ステージ袖。
白を基調とした豪華な照明が、幕の隙間から差し込んでくる。
観客の熱気、音響のリハーサル音、スタッフのかけ声……すべてが、本番の空気を張りつめさせていた。
「……深呼吸、しとく?」
アカネが、緊張した様子のミナトにそっと声をかけた。
ミナトはふるふると首を振って、小さく拳を握る。
「大丈夫。怖くないよ。みんながいるから」
その言葉に、アカネは微笑む。そして、その隣で静かに瞳を閉じていたソラが、ふっと目を開けた。
「もうすぐ始まる。……この舞台は、通過点。けれど、今日だけは“今”を全力で刻もう」
3人は小さくうなずき、手を重ねる。
「ホロミューズ、いこう!」
そのとき、少し離れた場所で立っていたユウトは、3人の様子を黙って見守っていた。
これまでのことが、脳裏に走馬灯のように駆け巡る。
――プロデューサーなんて無理だと思ってた。
――AIでアイドルを作るなんて、本気じゃなかった。
――でも、ひかりやナナや、みんなと出会って……。
目の前にいるアカネ、ソラ、ミナト。
その存在はもう、ただのデータやコードの集まりではない。
一緒に悩み、一緒に笑い、支え合ってここまで来た――間違いなく「仲間」だった。
(ありがとう、みんな……)
ユウトはそっとスマホを取り出し、ナナから届いたメッセージを見る。
「ちゃんと、見てるから」
その一文に、胸の奥が温かくなる。
もう、1人じゃない。コミュ障で、逃げてばかりだった自分でも――。
「いってこい、ホロミューズ」
その声に背を押されるように、3人はステージへと走り出していく。
カウントダウンの声が響く。幕が上がる。
そして、光が彼女たちを照らした。
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眩いライトが瞬き、ホロミューズのステージが幕を開けた。
「――ホロミューズです!今日は、最高の時間を一緒に作りましょう!」
アカネの第一声に、会場は一気に熱を帯びた。
彼女の声はまっすぐで、芯が通っていて、客席の奥まで届いていく。
1曲目は、ホロミューズの原点ともいえる楽曲。
かつてひかり、ソラ、ミナトが披露したデビュー曲のアレンジバージョンだ。
今はアカネ、ソラ、ミナトの3人で歌い上げるその姿に、かつての思い出と、新たな風が重なる。
(あの日、ひかりとソラとミナトで始まったこのステージを、今……アカネがしっかりと受け継いでる)
ユウトは、ステージ袖で固唾をのんで見守っていた。
観客の声援は、AIという存在への偏見を吹き飛ばすほどの熱量だった。
「次の曲は……“Colorful Harmony”!」
ミナトの声で始まった新曲は、全国大会のために制作した渾身のナンバー。
3人の個性と成長、そしてホロミューズというグループの今を体現した楽曲だった。
ソラのパートでは、研ぎ澄まされたダンスと正確なボーカルが会場を魅了する。
ミナトのパートでは、弾けるような笑顔と軽やかなステップが空気を明るく染めていく。
そしてアカネ――彼女の声がメインに乗った瞬間、会場の空気が一変した。
(これが……今のホロミューズ)
かつて“完璧すぎるAI”と評された彼女たちは、今や“心を届けるアイドル”になっていた。
アカネの瞳には、迷いも、戸惑いもない。ただ、ここに立つ覚悟と、支えてくれた仲間への感謝だけがあった。
「――ありがとう。ここまで来れたのは、あなたたちのおかげです!」
アカネのMCが会場を静かに包み込む。
「AIだからって、諦めることも、遠慮することも、もうしない。私たち、ホロミューズは、これからも全力で――“アイドル”を届けていきます!」
割れんばかりの拍手と歓声。
その中には、これまでホロミューズに向けられてきた偏見や疑念を超えた、確かな“認める声”があった。
(ここまで来たんだ……)
ユウトは目を伏せた。
震える手を握りしめ、口の中でつぶやく。
「ありがとう……ホロミューズ」
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ライブが終わり、舞台袖に戻ってきた3人。
汗をかいた額を拭きながらも、アカネ、ソラ、ミナトの顔には達成感がにじんでいた。
「やりきったね」
ソラが静かに微笑むと、ミナトが勢いよく両手を上げた。
「最高だったよね!? あの歓声、まだ耳に残ってる!」
「うん……私も、ちゃんと届けられたと思う。みんなの想いも、過去のホロミューズも」
アカネの言葉に、ふたりは小さく頷いた。
そこにユウトがゆっくりと歩み寄ってきた。
「……お疲れ。ほんと、最高のステージだったよ」
アカネは嬉しそうに笑った。
「プロデューサーの指導が良かったからです」
「いや、それは違う。君たちが……ホロミューズが、自分たちの力でここまで来たんだ」
ふと、ユウトの脳裏にいろんな記憶がよぎる。
初めてAIに出会った日。
ひかりの明るさに救われた日々。
ソラの冷静な判断、ミナトのお茶目な一面、そしてナナの支え。
アカネが加入し、ホロミューズがもう一度動き出した瞬間。
(俺は……プロデューサーである前に、ただのコミュ障オタクだった)
けれど――
今、目の前には、仲間がいる。
一緒に笑い、泣き、悩みながらも、同じ夢を見てくれた“アイドルたち”がいる。
ユウトはひとつ、深く息を吐き出して言った。
「……ありがとう。君たちに出会えて、本当によかった」
アカネがふと口元をほころばせる。
「私もです。プロデューサーに出会えてよかった。だって……このステージが、私の“心”になりましたから」
ミナトとソラも、小さく頷いた。
「さーて……ホロミューズの旅は、まだまだこれからだね!」
ミナトの声に、空気が一気に明るくなる。
「うん。ここで止まるつもりはないよ」
アカネの瞳には、未来を見据える力強さが宿っていた。
そして――
ユウトは、そっとスマホを取り出す。
画面には、ひかりから届いていたメッセージがひとつ。
『最高だったよ、ユウト! “絆”って、ちゃんと伝わったね!』
思わず笑ってしまう。
どこまでも自由で、まっすぐで、そして優しいひかりらしい言葉。
「……あぁ、ちゃんと届いたよ。みんなの“絆”は、ちゃんと」
静かに夜の帳が降りる。
けれど、ホロミューズの歩みは、まだ続いていく。
ステージの先に、もっと広い未来が待っている。
――これは、コミュ症オタクだった俺が、
AIアイドルたちと出会い、見つけた「絆」の物語。
そしてその絆が、これからの“未来”を創っていく。
(完)




