第24話『俺たちが創った奇跡』
第24話『俺たちが創った奇跡』
「……ふぅ」
夜の部室。カーテン越しに差し込む街灯の光が、静かな室内を淡く照らしていた。
天城ユウトはひとり、ノートパソコンを前にして深く息を吐いた。ホロミューズとして挑んだNEXT STAGE FESを終え、明日はついに――全国大会本選。
ライブの熱気はまだ肌に残っている気がするのに、現実は容赦なく次のステージへと時計の針を進めていた。
扉がそっと開く。
「ユウト、まだいたんだ」
振り返ると、ナナが顔を出していた。制服のまま、リュックを背負った姿はどこか安心感をくれる。
「……帰ろうかと思ったんだけど、なんか落ち着かなくて」
ユウトが苦笑する。
ナナは彼の隣に腰を下ろし、ぽつりとつぶやいた。
「NEXT STAGE FES……思った以上に反響あったみたい。SNSでも『ホロミューズすごい!』って」
「うん、見た。再生数もフォロワーも、ぐんと増えてる。……でも明日が本番だ」
「そだね」
しばしの沈黙。
ナナがぽつりと続ける。
「アカネも、ちょっと緊張してたよ。『これまでで一番大きなステージになる』って」
「そりゃ、そうだろ……俺だって今からお腹痛い」
「はは、情けないプロデューサーだなー」
「ほんとにな……」
苦笑がふたりの間に流れた。
けれど、ユウトの表情は少しずつ引き締まっていく。
「……あのステージに立つ意味は、俺たちだけじゃない。ここまで一緒に走ってきた、ひかり、そして見てくれてるファン、すべての人に“ホロミューズの物語”を見せるチャンスなんだ」
ナナは黙って、彼の横顔を見つめる。
「……大丈夫。ちゃんと伝わるよ。ホロミューズの全部が」
その言葉に、ユウトは小さくうなずいた。
夜は深く、しかし確実に明日へと向かっていた。
全国大会――奇跡の舞台が、すぐそこに迫っていた。
---
大会当日の朝。会場はすでにスタッフと出場チームたちの熱気で包まれていた。
天城ユウトは、ホロミューズの3人――ナナ、ソラ、アカネとともに、関係者受付を抜け、ステージ裏の控え室へと向かっていた。
「うわぁ……すっごい広いね……!」
アカネが思わず口を開く。昨日のFESよりもさらに大きなホール。全国大会本選にふさわしい、圧倒的なスケールだった。
「……昨日とは全然違う。空気が重い」
ソラは壁に貼られた出演順を見て、ふぅと小さく息を吐く。
「緊張してる?」
「……少しね。でも、ちゃんとやれる」
ユウトはそんなふたりの後ろで、ナナの背中を見ていた。
いつもより背筋が伸びている気がする。昨日のライブから、彼女の何かが変わった。
きっと今、ホロミューズを引っ張っているのはナナだ――そんな実感があった。
「じゃあ、ステージリハ行ってくる!」
アカネの声に引き戻される。
スタッフに案内されて、3人はステージへと向かっていった。
ユウトはその背中を見送りながら、ポケットの中でスマホを握りしめる。
(ひかり。お前のいないステージはまだ不安だけど――)
ふと、通知音が鳴った。
SNSには、ファンたちのコメントが次々と届いていた。
「今日のホロミューズ、楽しみにしてる!」
「昨日のFESやばかった!全国でも絶対魅せてくれるはず!」
「“今のホロミューズ”が一番好きかもしれない」
それを読んだ瞬間、ユウトの胸に灯ったものがあった。
プレッシャーでも、不安でもない。
――確かな希望だった。
リハーサルを終え、戻ってきた3人。
「ふぅー、音響バッチリだったよ!」
アカネが汗を拭きながら笑顔を見せる。
「……うん、あとは本番だけだね」
ソラがうなずき、ナナも頷く。
「ユウト」
ナナがふいに声をかけてきた。
「……準備は、できてるよ」
その言葉に、ユウトは自然と笑みを浮かべる。
「よし。じゃあ――行こうか。ホロミューズ、最高のステージを見せてやろう」
控え室のドアが開かれる。
光の先には、本選のステージ。
全国の視線が、今まさに彼女たちを待っている。
---
本番直前。会場の明かりが落ち、観客席にどよめきが広がる。
ステージ袖で、アカネ、ソラ、ミナトの三人が最後の確認を終えた。
「準備は……大丈夫?」とアカネが言うと、ソラが小さくうなずいた。
「うん。緊張してるけど、悪くない。この感じ……前より強くなれてる気がする」
ミナトはにっこり笑って、「うん、わかる。なんか、今ならどこまででも行けそうな気がするよ」
三人の手が重なり合う。
その手には、不安も希望も、すべてを乗せた覚悟がこもっていた。
袖のモニターに、ステージ中央のライトが映る。
ナナの声が、控えめにマイクから響いた。
「それでは――ホロミューズ、ステージへ」
その短い紹介の言葉に、歓声が重なる。
一歩、また一歩。
アカネ、ソラ、ミナトがステージの光の中に歩み出ていく。
まばゆいライトが彼女たちを包み込み、曲が始まる。
ひかりから受け継いだ想いを胸に、
ナナやユウト、そして支えてくれたすべての人のために、
ホロミューズは今、新たな輝きを放とうとしていた。
未来を掴む、その第一歩を――ステージの上で。
第24話『俺たちが創った奇跡』 (完)




