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第17話『ホロミューズ解散の噂と、揺れるメンバー』

第17話『ホロミューズ解散の噂と、揺れるメンバー』



学園の昼休み、天城ユウトはスマホを見つめて眉をひそめた。


SNSのタイムラインに流れてくるのは、先日のNEO★PLANETの圧巻のステージを賞賛する声と、それに付随する“比較”だった。


「ホロミューズ、完全に霞んでた」

「NEOに勝てるわけないでしょ」

「あれがトップクラス、ホロミューズはお遊び」


中でも一際目を引いたのは、ある匿名アカウントの投稿だった。


「ホロミューズ、もしかして解散秒読みじゃね?」


その言葉が、胸の奥を静かに刺した。


「……そんなの、ただの憶測だろ」


自分に言い聞かせるようにユウトはつぶやいたが、思考の中にはうっすらとした不安が忍び込んでいた。


昼休みが終わり、部室に向かうと、ひかりたちはすでに集まっていた。

いつものように明るく声をかけるひかり。けれど、どこか空元気に見えた。


「おっそーい!ユウト、今日の課題曲、もう準備できてるよー!」


「……あ、ああ。ありがとな、ひかり」


ユウトはなんとか笑顔を作って返したが、他の二人も様子がおかしかった。


ソラは端末の画面を見つめたまま何も言わず、ミナトは椅子に揺られながら鼻歌を歌っていたが、そのメロディはどこか不安定だった。


部室の空気が、いつもと違う。

まるで誰もが、あの“噂”を知らないふりをしているようだった。


(俺が……ちゃんと、しなきゃいけないのに)


何かが崩れていきそうな、そんな予感だけが静かにユウトの胸を締めつけていた。


---


「……やっぱ、空気重いなあ」


そう呟いたのは、部室の扉を開けて入ってきたナナだった。手には紙パックのジュースとスナック菓子を抱えている。


「ほら、糖分足りてないでしょ。ひかりも、ソラも、ミナトも。はい、差し入れ」


無理やり明るく振る舞うような調子で、ナナはそれぞれの手にジュースを押し付ける。思わずひかりが笑って、ソラは無言のまま受け取り、ミナトは「ナイス気配り〜」と親指を立てた。


「……ありがと、ナナ」


天城ユウトがそう言うと、ナナは彼の隣に腰を下ろした。スナックをひとつ開けて、ぽいっと口に放り込みながら、小さな声で呟いた。


「解散って、マジで言ってるわけじゃないよね?」


「……誰も決めたわけじゃない。でも、今のままじゃ……どうにもならないかもしれないって、正直思ってる」


「ふーん……」


ナナは天井を見上げながら、長く息を吐いた。


「ユウトさ、悩んでるときって目が死んでるんだよね。ほら今も。ぜんっぜん覇気ない」


「言い方……」


「でも、ちゃんと考えてるってことは伝わってくる。だからさ、あたしは信じてるよ。ユウトが、絶対このグループをちゃんと導いてくれるって」


ユウトは、目を伏せたまま少しだけ笑う。


「ナナは……ずっとそう言ってくれるな」


「だって、最初から見てたもん。ひかりが初めて歌った日も、ソラとミナトが加わったときも。ユウトが寝ないで調整してたのも」


「観察しすぎだろ」


「ふふ。だって、プロデューサーでしょ? ちゃんと立ってなきゃ、みんなが不安になるんだから」


ナナの声には、決して押しつけがましくない、でも確かな強さがあった。


「……ありがとな」


「うん。お礼はあとで、チョコでいいよ」


そう言って、ナナはまたスナックをかじった。さっきまで張り詰めていた部室の空気が、少しだけ和らいだような気がした。


---


その日の放課後。部室の隅にあるホワイトボードには、これまでの練習スケジュールや企画案がずらりと並んでいた。だが、ここ数日は、どれも手付かずのままだった。


「じゃあ……今日は軽く合わせてみようか」


ユウトの提案に、ひかりが真っ先に「やるやるー!」と手を上げる。ソラとミナトも頷き、少しずつだが前を向き始めている。


ナナはひとり、機材の調整をしながらユウトの様子をちらりと見た。


「……よし。準備できたよー!」


ひかりの声と同時に、ホロミューズの3人は定位置に立った。BGMが流れ出し、彼女たちが動き出す。


歌いながら目を合わせ、タイミングを計る。声が重なり、振付が揃っていく。


その姿は――紛れもなく、“ホロミューズ”だった。


「……やっぱ、すごいな」


ユウトは呟いた。何度も見てきたはずの光景なのに、今日だけは胸が熱くなる。


全員が、ここにいる理由を思い出している。AIだとか、人間だとか、そんな境界を超えて、ただ”ステージに立ちたい”という想いだけが、彼女たちをつないでいる。


曲が終わると、少し息を切らせながら、ひかりが笑った。


「ね、やっぱり私たち、まだまだこれからじゃない?」


ソラは「精度的には申し分ないわ」とクールに答え、ミナトは「ふふ、AIでも気合いは入るもんだね~」とおどけてみせた。


ナナは拍手を送った後、ユウトの肩を軽く叩いた。


「これがホロミューズ。ユウトが作ってきたんだよ」


ユウトは小さく頷く。


「……解散なんて、やっぱりないよな」


その言葉に、全員が一斉に振り返った。


「だって、まだ何も成し遂げてないからな。俺たちの”物語”は、ここからだ」


メンバーたちの目に光が戻る。AIアイドルという新たな形に、戸惑いも不安もある。それでも、この場所でなら、まだ歩き出せる。


ホロミューズは、終わらない。


そして――再び、前へ進み始める。


第17話『ホロミューズ解散の噂と、揺れるメンバー』

(完)

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