表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第16話『コピーかオリジナルか、アイドルの存在意義』

第16話『コピーかオリジナルか、アイドルの存在意義』



合同ライブのステージが終わり、ユウトは客席のざわめきを背に控室へと戻った。


ホロミューズの3人――ひかり、ソラ、ミナトは、汗を拭きながらも笑顔を見せていた。

いつものように無邪気にはしゃぐひかりの姿に、ユウトは少しだけ救われる気がした。


「よかったよ、ステージ。…ちゃんと伝わってたと思う」


ナナが声をかけてくれる。

ユウトは曖昧に頷きながらも、どこか引っかかる気持ちを拭えずにいた。


ライブ後、SNSを開くと、そこには圧倒的な差があった。


《NEO★PLANETすごすぎ!ダンスも歌も神レベル》

《完璧すぎて鳥肌立った…》

《あれが本物のAIアイドルだろ》


一方で、ホロミューズへの言及は少なく、その大半は好意的とはいえなかった。


《ちょっと地味だったかな…》

《悪くはないけど、NEOの後だとインパクト弱い》

《でも、なんか応援したくなる不思議な魅力がある》


ユウトはスマホを握りしめ、苦い気持ちを味わっていた。


「やっぱり、俺たちはまだまだだな……完璧には敵わない」


ぽつりとこぼれた言葉に、ナナがそっと答える。


「でも、“完璧じゃない”って、本当に悪いことかな?」


ユウトは顔を上げた。

ナナの言葉はふわっとしていたけど、その奥には何か確かなものがあるように感じた。


ソラが静かに言った。


「完璧じゃないからこそ、心に残るってこともあるよ」


「そうだよ〜!」

ひかりが元気よく続けた。

「私たち、今までだってちょっとずつ進んできたんだもん。今回もきっと――ね、プロデューサー!」


その言葉に背中を押されるようにして、ユウトは小さく息をついた。


(NEO★PLANETに比べて、僕たちは“未完成”かもしれない。それでも…)


拳を握りしめ、ユウトは少しだけ前を向いた。


---


数日後、放課後の開発室。

ユウトはホロミューズのAIアルゴリズムを見直していた。


「パフォーマンス精度だけを追いかけると、NEO★PLANETと同じ路線になってしまう…」

自分たちが目指すべき道は、それとは違うはずだ。けれど、それが何かはまだ掴みきれていなかった。


そこへ、ミナトがひょっこりと画面を覗き込む。


「ユウト、NEOのライブ動画、また見てるの?」


「いや、比較のために見てるだけだよ」


「ふーん…ねえ、それって“憧れ”じゃないの?」


ユウトは少し驚いてミナトを見た。


「え?」


「完璧を真似して、同じものを作ろうとするのって、どこか“羨ましい”って気持ちがあるからでしょ? でも、私たちには私たちの良さがあると思うんだよね~」


その瞬間、ソラも口を開いた。


「技術的には、NEOに追いつくことは可能。でもそれが“ホロミューズらしさ”かと言われると、違う気がする」


「じゃあ、ホロミューズらしさって…なんだろう?」


ユウトの問いに、しばらく誰も答えなかった。


その沈黙を破ったのは、ひかりだった。


「ねぇ、ユウト。私たちが最初にステージに立ったときのこと、覚えてる?」


ユウトはうなずいた。あの時のぎこちないダンス、音程のズレた歌、そして、それでも笑って応援してくれた観客たちのこと。


「私、あの時が一番楽しかったかも。失敗しても、ドキドキして、ワクワクして。…“心”が動いた気がしたんだよね」


ミナトが笑いながら言った。


「ひかりっぽい意見~。でも、なんか納得できちゃうのがすごいよね」


ユウトはふと気づく。

そうか、自分は「AIに足りない“心”を補う」ことを目指して、彼女たちとここまで来たんだ。なのに、いつの間にか「完璧な存在」を追っていたのかもしれない。


“コピー”ではなく、“オリジナル”を作る――。

それこそが、ホロミューズの存在意義だ。


「…ありがとう、みんな。やるべきことが見えてきたよ」


ユウトの言葉に、3人は笑顔で頷いた。


---


週末の学園ホール。

NEO★PLANETの模擬ライブイベントが行われるとあって、客席には生徒や教師だけでなく、外部からも多くの見学者が集まっていた。


ユウトとホロミューズの3人も客席の一角に座っていた。

ステージ上では、完璧なフォーメーションと歌唱力、緻密に計算された演出が次々と披露される。


「すごいね…まるでプロのショーみたい」

ひかりが思わずつぶやいた。


ソラも真剣な眼差しでステージを見つめる。

「情報によると、NEOのAIモデルは自己学習型で感情反応までシミュレートしてる。人間と見分けがつかないレベル」


「でもさ~」ミナトがひょいと顔を出すように前のめりになる。「なんか、ちょっとだけ“わかってる感”出しすぎじゃない?」


「どういう意味?」とユウトが聞くと、ミナトはいたずらっぽく笑って答えた。


「“観客の理想通り”すぎて、びっくりがないっていうか。全部“予定調和”に感じちゃうの」


たしかに、完璧すぎるパフォーマンスには、どこか“既視感”があった。

感動はある。けれど、その感動は“予測の範囲内”に収まっていた。


それに比べて、ホロミューズはまだ未完成で、失敗も多い。

でもそこには、驚きや、思わず笑ってしまうような意外性がある。そして、それが観る人の“心”を動かしていたのではないか…。


ステージが終わり、会場は大きな拍手に包まれた。

NEOのリーダーAIが一礼し、笑顔で会釈する。どこまでも洗練されていた。


でも、その後、会場を出る時に聞こえてきた観客の声が、ユウトの胸に引っかかった。


「やっぱすごいよな、NEO。でも、ホロミューズのライブも…また見たいかも」


その言葉を聞いた瞬間、ユウトの中で何かが確信に変わった。


帰り道。学園の中庭を歩きながら、ユウトはつぶやいた。


「俺たちは…俺たちらしく、いこう」


その言葉に、3人は並んで頷いた。


彼女たちは“オリジナル”だ。

コピーじゃない。唯一無二の、ホロミューズ。


ユウトの目に、新しい目標がはっきりと映っていた。


第16話『コピーかオリジナルか、アイドルの存在意義』 (完)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ