第15話『強すぎるライバルグループ出現!』
第15話『強すぎるライバルグループ出現!』
学園の廊下を歩いていると、クラスメイトたちの話し声が耳に入ってきた。
「見た!? 新しく出てきたAIアイドルグループ、NEO★PLANET!」
「うん、めっちゃ可愛いし、ダンスも完璧だった~!ホロミューズもいいけど、あれはヤバい……」
天城ユウトは、その名前を耳にした瞬間、足を止めた。
NEO★PLANET。今朝SNSのトレンドで目にしたばかりの名前だ。
動画サイトにはすでに彼女たちのデビューライブ映像がアップされ、コメント欄は賞賛の嵐だった。
(……ホロミューズとは、レベルが違う)
正直なところ、ユウトもその完成度に驚かされた。
表情の微妙な動き、ダンスの一糸乱れぬシンクロ、トーク力も観客とのやりとりも自然で――まるで生身の人間のようだった。
「ユウト」
背後から声をかけられて振り向くと、ナナが少しだけ眉をひそめていた。
「見たでしょ、NEO★PLANETのライブ動画」
「……うん。見た」
「すごかったよね。でも、あれ……ホロミューズの上位互換って感じ、しない?」
ナナの言葉は鋭いが、核心を突いていた。
ひかりたちホロミューズも、AIとして作られた存在だ。けれどNEO★PLANETは、その先を行っているように感じられた。
その日の放課後、ユウトはホロミューズのメンバーを集め、動画を見せた。
モニターの前で、ひかり、ソラ、ミナトが真剣な表情で映像を見つめる。
映像が終わると、最初に口を開いたのはミナトだった。
「すっご……! まさにプロアイドルって感じだね!」
「歌も、ダンスも、完璧に調整されてるわね」とソラも冷静に評価を口にする。
だが、ひかりだけは複雑な顔をしていた。
「……なんか、すごいけど……ちょっと、冷たく感じない?」
「冷たい?」ユウトが聞き返す。
「うん……なんか、キレイすぎて、気持ちが届いてこないというか……」
それは、ユウトも薄々感じていたことだった。
完璧であることが、必ずしも“心に響く”とは限らない。だけど――
「ホロミューズはどうしたい?」と、ユウトが問いかけると、
「うちの武器は、やっぱ“気持ち”っしょ!」
ひかりがムードメーカーらしく、笑顔で言った。
その言葉に、ユウトの胸の中にあった不安が少しだけ晴れていくのを感じた。
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数日後。学園の放送室から、ある重大発表が告げられた。
『今週末、本校のメインホールにて――特別ステージイベントが開催されます!
ゲストには今話題のAIアイドルグループ、NEO★PLANETが出演! さらに……ホロミューズとの共演も決定しました!』
その瞬間、校舎中がざわめいた。
天城ユウトは、固まったようにその場に立ち尽くした。
「え、ちょ……聞いてないんだけど……」
ナナも驚いたように言葉を失っている。
ホロミューズのメンバーたちも同じだった。控え室に集まったひかり、ソラ、ミナトは、それぞれ違う表情を浮かべていた。
「いきなりすぎるってば……!」ミナトはわかりやすく動揺していた。
「事前に話くらいあってもいいでしょ、これ……」
「どうやら、学園側の企画みたいね」とソラが端末を確認しながら冷静に状況を整理する。
「今のAIアイドルブームを利用して、話題を作るつもりよ」
ユウトは、学園の広報担当のSNS投稿を見て確信した。
完全に「比較」されることを前提にした企画だった。
NEO★PLANETはすでに世間から注目を浴びている。
その彼女たちと同じステージに立つことが、ホロミューズにとってどれだけリスクを伴うか――ユウトは痛いほど分かっていた。
(負けるかもしれない……いや、きっと負ける)
そんな弱気な思いが、心のどこかに生まれてしまう。
けれど、そのとき――
「ユウトくん、顔が暗いよ?」
ひかりが、隣で明るく声をかけてくる。
「こっちはまだまだこれからだし、勝ち負けじゃないよ。……“らしさ”を出せば、絶対届くって、あたし信じてるから!」
その言葉に、ユウトの心が少しだけ軽くなる。
「NEO★PLANETには負けないよ。うちは“心”でいくからさ」
ひかりの笑顔は、不安を跳ね飛ばす太陽みたいだった。
ソラも小さく頷いた。
「完璧さで勝てないなら、別の勝ち方を探すまで。……それが、私たちのやり方よ」
「ふふっ、面白くなってきたじゃん」ミナトもいつもの調子を取り戻し、にんまりと笑った。
ユウトは、もう一度ホロミューズを見渡す。
彼女たちはAI。でも、ちゃんと“想い”があるように感じる。
(大丈夫。俺は、ホロミューズを信じる)
彼の瞳に、再び光が宿るのだった。
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イベント当日。
ホールの裏手には、2つのAIアイドルグループが集まっていた。
ひかり、ソラ、ミナトのホロミューズ。
そして、NEO★PLANETの3人――その洗練された姿と、パーフェクトな立ち振る舞いは、まさに“完成されたスター”という印象を与える。
「あなたたちが、ホロミューズ?」
NEO★PLANETのリーダー、ルナが近づいてくる。長い銀髪を揺らしながら、表情ひとつ変えずに言った。
「うわさは聞いてる。“心”をテーマにしてるって。でも、観客が求めるのは感動だけじゃない。“結果”よ」
挑戦的というより、純粋に事実を述べるような声。
けれど、それが余計にプレッシャーとなる。
ひかりは一瞬言葉に詰まりかけたが――すぐに笑顔で返す。
「うん、わたしたち、まだまだ勉強中だから。でもね、今日は楽しみにしてるんだ。ルナちゃんたちのパフォーマンスも!」
その言葉に、ルナの瞳がかすかに揺れた。
それでも彼女は何も言わず、踵を返して去っていった。
(……負けたくない)
ユウトの心に、燃えるような感情が芽生える。
ただの勝ち負けじゃない。これは、ホロミューズが「何者なのか」を証明する場なのだ。
「ユウトくん、見ててね」
ひかりが小さな声で言う。その声は、いつものように明るくて――だけど少しだけ震えていた。
「うん。絶対、大丈夫。お前らは、ここまで来たんだ。信じてるよ」
ひかりが少しだけ目を見開き、すぐにふわっと笑った。
ステージが始まる。
照明が落ち、アナウンスが響く。
「続いて登場するのは――ホロミューズ!」
まばゆいライトが照らし出す先に、ひかり、ソラ、ミナトの姿が現れる。
彼女たちは、それぞれの表情で、観客席を見つめた。
――これは挑戦じゃない。
――これは、ホロミューズの「物語」を届けるステージ。
観客のざわめきの中、音楽が鳴り始める。
いよいよ、幕が上がる。
第15話『強すぎるライバルグループ出現!』 (完)