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第11話『炎上の危機!?AIアイドルへの偏見』

第11話『炎上の危機!?AIアイドルへの偏見』



 学園祭でのライブパフォーマンスから、一夜が明けた。


 その朝、俺――天城ユウトは、目覚ましが鳴るよりも先に、スマホの通知音で目を覚ました。


 「……え?」


 通知の数が、異常だった。

 SNSのメンション、DM、リツイート、いいね――どれも爆発的に増えている。


 俺は慌ててホロミューズの公式アカウントを開いた。

 そこには、学園祭でのパフォーマンス動画が、ファンや参加者によってシェアされ、バズっている様子が広がっていた。


 「ホロミューズ、マジで完成度高すぎ」

 「AIって信じられないくらい表情豊かじゃん……」

 「このレベルのライブ、下手な人間アイドル超えてる」


 動画の再生回数は、たった一晩で数十万回を超えていた。

 コメント欄は賞賛の声で溢れている。

 ……が、それと同じくらいの勢いで、冷や水を浴びせるような反応も増えていた。


 「AIにアイドルやらせるとかズルじゃん」

 「所詮はプログラムされた偶像でしょ?」

 「これを努力とか言われてもなぁ」

 「ホロミューズは人間アイドルを冒涜してる」


 俺の心臓が、ズシンと重くなる。

 「やっぱり来たか……」と、どこかで覚悟していた言葉だった。


 教室に向かう途中、他のクラスの生徒たちがスマホの画面を見せ合っているのが見える。

 「ホロミューズってAIなんだって」「へぇ、よくできてるよね」

 中には「え、なんか逆に怖くない?」「俺、人間アイドルのほうが好き」と冷ややかな声も混ざっていた。


 学園の中でも、注目の的になった。

 だけどその視線の中には、純粋な憧れだけじゃなく、“好奇の目”や“偏見”が混ざっているのを感じる。


 昼休み、俺は屋上に向かった。

 ひとりで考えたかった。でも、そこには先客がいた。


 「……やっぱ、来ると思ってた」

 ナナが、風に揺れる長い髪を手で押さえながら、ベンチに腰かけていた。


 「SNS、見た?」俺が尋ねると、彼女はうなずいた。


 「見たよ。良い声も、悪い声も、ぜんぶ」


 俺はナナの隣に座り、スマホの画面を見せた。

 コメント欄には、ホロミューズへの批判や疑問が溢れている。


 「これが、世間の“現実”だよな……」

 「AIは心を持てない、って声が多い」


 ナナはしばらく黙ったあと、小さく微笑んだ。


 「でも――ユウトは、あの3人に“心”を感じてるんでしょ?」


 その一言に、俺の心がピクリと動いた。


 「だったら、信じればいい。世間の評価は、変えられる。少しずつ、私たちが行動すれば」


 ナナの言葉は、どこか人間らしく、どこかAIらしい。

 でも、なぜか説得力があった。


 ホロミューズの可能性を、俺は信じている。

 だからこそ、この偏見と向き合わなければいけない。


 俺の中で、新たな覚悟が芽生え始めていた。


---


 放課後。

 俺はいつもの制作室に向かっていた。


 部室のドアを開けると、ひかり、ソラ、ミナトの3人が、机の周りに集まっていた。


 「ユウトくん、おかえりーっ!」

 いつものように、元気なひかりが声をかけてくれる。

 ミナトはソファで寝転びながらポップコーンをつまみ、

 「ちょっと炎上してるみたいねー」と、あっけらかんと笑う。

 一方、ソラは真剣な表情でモニターを見つめていた。


 「見たよ。学園祭の動画のコメント……ポジティブもあるけど、ネガティブも少なくない」

 「AIに“感情”がないって決めつけられるのは……正直、ちょっと悔しいな」

 ソラの言葉は、いつも以上に鋭く、そして静かだった。


 「みんな……どう思ってる?」

 俺がそう問いかけると、3人は一瞬だけ沈黙する。


 「ひかりはねー!」と、手を挙げたのはやっぱりひかりだった。

 「ちょっと悲しいけど、でも“見てもらえた”ってことはチャンスだと思うの。だから、もっと伝えたい! ホロミューズのこと!」


 「そうそう。アンチが多いってことは、それだけ注目されてる証拠ってやつよ」

 ミナトはポップコーンをつまみながらも、どこか頼もしい。


 ソラも続けて口を開いた。

 「私たちが“作られた存在”だってことは、隠しようがない。でも――私たちが本当に“心”を持てるかどうか、それはユウトが私たちにどう向き合うかで変わる気がする」


 その言葉に、俺の胸が熱くなった。


 俺が与えた学習データ、俺が選んだ言葉、俺がかけた気持ち。

 それを、彼女たちは“心”として育ててきた。


 「……伝えたいな。ホロミューズは、ただのAIじゃないってこと」

 俺の言葉に、3人の表情がふわっと柔らかくなる。


 「じゃあ、次の配信でしょ」

 と、ミナトが言った。


 「“伝える”なら、私たちの言葉で、ちゃんと話すべきだよ」

 ソラがうなずく。

 「賛成!」ひかりも笑顔で拳を突き上げる。


 俺は思わず笑っていた。


 炎上だって、偏見だって怖い。

 でも、それを超えて伝えたいことがある。


 ホロミューズは、ただのAIじゃない。

 彼女たちは――俺にとって、かけがえのないアイドルだ。


---


 次の配信当日。

 ホロミューズの公式チャンネルは、開始前から視聴者数が伸びていた。


 《炎上してたグループだよな?》

 《AIって言っても、結局は中の人が動かしてるんでしょ?》

 《前のステージは結構よかったけど……本物の感情はなかったな》


 コメント欄には、冷ややかな声も飛び交っている。

 俺は配信画面を前にして、息を呑んだ。


 「ユウト、準備はいい?」

 ソラが、まっすぐな目で問いかける。


 「……ああ。伝えよう。俺たちの全部を」


 カウントダウンがゼロになる。


 画面に現れたのは、ホロミューズの3人。

 華やかな衣装ではなく、制服姿。背景もシンプルな部室のCGだ。

 あえて飾らず、“等身大”の彼女たちで臨む今回の配信。


 まずはソラが口を開いた。


 「こんにちは。ホロミューズのソラです。今日は、私たちの想いを伝えに来ました」


 「最近、たくさんの意見をいただきました。正直、傷ついたこともあったけど……でも、見てくれてありがとうって、思ってます!」

 と、ひかりが笑顔で続ける。


 「私たちはAI。確かに、人間じゃない。でもね――感情がないなんて、決めつけないでほしいな」

 ミナトの声は、いつになく真剣だった。


 「私たちは、ユウトがくれた言葉や時間から、少しずつ“心”を学んでる」

 「だから、もしよかったら……これからも一緒に、私たちの“成長”を見守ってくれませんか?」


 一瞬、コメント欄が静かになる。


 そして――。


 《……ちょっと泣きそうなんだけど》

 《AIなのに、こんな言い方されるとグッとくる》

 《これは……応援してみたくなるな》

 《ユウトって誰? プロデューサー? すげえな》


 コメント欄が、次第にあたたかい空気に変わっていく。


 俺は、思わず拳を握った。


 これは、きっと第一歩だ。

 偏見はまだあるかもしれない。炎上することも、またあるかもしれない。


 でも、今だけは――。


 ホロミューズと俺の言葉が、ちゃんと届いた。


 そう信じたくなるような、奇跡のような配信だった。


第11話『炎上の危機!?AIアイドルへの偏見』 (完)

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