凱旋式には出なかった。――
凱旋式には出なかった。
少しでも早く、教会に戻りたかったからだ。
ブドウ棚の道はゴボウが生え、つる草が好き勝手に垂れて、歩いている人の顔にぶつかるくらいだ。
教会の敷地にある畑はみな草むらと見分けがつかなくなっている。
ハサミ、クワ、霧吹き。
葉一枚一枚を優しく濡らせば、酸味のあるブドウが生る。
教会の扉を押し開ける。
驚いたことに教会は司祭が亡くなったときと、まったく同じで、燭台も聖像も正しい位置に置いてあり、ベンチには埃がまったく積もっていなかった。裏口から小川に向かって突き出た土地へ向かい、そこに作られた司祭の墓でひざまずいて、司祭に戻ってきたことを告げた。
墓のまわりには根に命を持つ雑草がずいぶん生えていた。だが、鍛冶に少しながら心得のあるピエトロはこの手の雑草を根ごとくりぬく、特別な形のスコップをつくっていた。
そのスコップを取りに道具小屋に入ると、作業用机に大きな楽器ケースが置いてあるのを見つけた。
ピエトロはそのケースを開けてみた。
ビロード張りの穴にぴったりはめ込まれた部品たち——銃身、消音器、ボルト、スコープ。それに銅でメッキした弾が一発。銃が特殊なせいで、弾も特殊なものになり、いまはこの一発があるだけだ。銃職人は司祭ほどの老人なので、おそらくもう死んでいるだろう。
考えた。この銃を、また、誰かのために使うことがあるだろうか?
思い出した。瀕死の重傷を負って、軍医たちの治療所に担ぎ込まれたカラヴァッジョ大尉を。
皮膚を怒りの波が走った。この波は心からほとばしり、全身を覆う。
震える手を握りしめ、目をきつく閉じ、息を深く吸って、止めた。
まぶたを開ける。
自作の雑草抜きようスコップが柱に打った釘からぶら下がっているのが見えた。
ピエトロは笑った。朗らかに。
そして、スコップを手に取ると、司祭の墓へと走って戻っていった。
〈終わり〉